くも膜下出血

未破裂中大脳動脈瘤が見つかった患者さんの治療相談【セカンドオピニオン】

セカンドオピニオン、脳動脈瘤

 

頭痛やめまいで脳神経外科を受診し、念のためにMRI検査を受ける患者さんの中には、未破裂脳動脈瘤がたまたま見つかってしまう方もいます。

破裂すると「くも膜下出血」を起こしてしまう未破裂脳動脈瘤ですが、日本人全体の2〜6%の人がもっていると言われています。

今回は、MRI検査でたまたま未破裂中大脳動脈瘤が見つかった患者さんが、セカンドオピニオンということで相談を頂いた時の実話を元に、未破裂中大脳動脈瘤の治療について考えてみたいと思います。

 

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【目次】

未破裂中大脳動脈瘤が見つかった患者さんからの相談

患者さんは63歳の女性で、お名前を仮に”Aさん”とします。

Aさんは今年の梅雨の時期に「手の痺れ」を自覚するようになり、近くの病院を受診されました。

その病院で頭部MRI・MRA検査を受けたところ「左中大脳動脈瘤」が見つかったのです。

脳動脈瘤の場所としては、左のこめかみの奥くらいにあるイメージです。

Aさんの未破裂脳動脈瘤の特徴をまとめてみます。

 

・Aさんの年齢:63歳

・左側の中大脳動脈瘤

・脳動脈瘤の大きさ:4.7mm

・脳動脈瘤自体にコブができている

 

脳動脈瘤が見つかった病院で3ヵ月後にフォローアップ検査をする予定でしたが、心配になり他の大きな病院を受診されたようです。

Aさんが2番目に受診した病院で、脳神経外科の先生に次のように言われました。

 

「コブの上にコブができていて、そのコブの壁が薄そうだから、クリッピング術をした方がよいでしょう」

 

しゅ、手術!!?

 

いきなり言われると、びっくりしますよね?

僕も今までの脳神経外科医人生で、多くの患者さんをびっくりさせてきました。

脳の手術と言われて、落ち込んで”うつ病”みたいになってしまう患者さんもいます。

脳の手術って、お腹や手足の手術と比べて、やっぱりすごく抵抗があるようです。

 

Aさんとそのご家族も同じく「脳の手術」と言われてどうすればよいのか悩まれたようです。

そして脳神経外科医アキラッチョの元へ相談に来てくれました。

Aさんの未破裂中大脳動脈瘤ですが、一番よい治療は本当にクリッピング術なのでしょうか

未破裂中大脳動脈瘤の治療について検討してみましょう。

 

くも膜下出血、治療

 

未破裂中大脳動脈瘤の治療はどうすればいいの?

治療を考える上で、もう一度Aさんの未破裂脳動脈瘤の特徴をおさらいしましょう。

 

・Aさんの年齢:63歳

・左側の中大脳動脈瘤

・脳動脈瘤の大きさ:4.7mm

・脳動脈瘤自体にコブができている

 

まず治療そのものを受けるかどうかという問題ですが、Aさんの年齢が重要になります。

Aさんは生来健康な63歳の女性です。

63歳(2017年8月時点)の女性と言えば・・・

 

・竹下景子さん(女優)63歳

・小林幸子さん(歌手)63歳

・奈良富士子さん(女優)63歳

 

などなど、現役でバリバリに働かれている女性の方が非常に多いです。

そして女性の平均寿命ですが、2016年には87.14歳で過去最高となっています。

(ちなみに男性80.98歳で、こちらも過去最高です)

ここで単純に引き算をしてみると、87 − 63 = 24となるので、このAさんにはあと24年も人生が残っていることになります。

そう考えると、残りの24年もの間、いつ破裂するかわからない脳動脈瘤にビクビクおびえて生活するよりも、若いうちにきっちり治しておいた方が絶対にいいです ^ ^

 

またAさんの左中大脳動脈瘤は7mm未満(4.7mm)なので、破裂の危険性一年間で0.25%になります。

(※ ちなみに7mm以上の中大脳動脈瘤年間破裂率は2.57%です)

これはAさんのような患者さんが1,000人いたら、一年間でその中の2〜3人がくも膜下出血を起こすという計算になります。

 

こう考えると破裂の確率としては非常に低いのですが、一番のポイントは「脳動脈瘤自体にコブができている」という点になります。

脳動脈瘤自体にできたコブのことを「ブレブ」と呼んでいますが、このブレブがあるだけでグーン!と破裂するリスクが高くなるのです。

未破裂脳動脈瘤全体の話になりますが、ブレブのあるなしで破裂率は次のように大きく変わります。

 

・ブレブがない・・・年間破裂率:0.73%

・ブレブがある・・・年間破裂率:2.33%

 

脳動脈瘤の大きさが4.7mmと比較的大きめのサイズで、しかもブレブがあるということで、63歳の若いAさんは、未破裂中大脳動脈瘤の治療を積極的に考えた方がよさそうです

 

脳動脈瘤、クリッピング術

 

それでは治療を受けるということが前提で、未破裂中大脳動脈瘤をどのような方法で治療するか?という問題が出てきます。

未破裂脳動脈瘤の治療としては、基本的には次の2つの治療法が選択肢になります。

 

クリッピング術(開頭手術)

コイル塞栓術(カテーテル治療)

 

クリッピング術は、全身麻酔で頭を切って治す開頭手術になりますが、一方でコイル塞栓術はカテーテルを使った”切らずに治す”治療法になります。

 

「どちらで治療しますか?」

って聞かれれば、10人中9人以上はコイル塞栓術を選ぶと思います。

(誰だって、頭を切られたくないはずです)

しかし、未破裂”中大脳動脈瘤”に関しては、次に挙げる理由からクリッピング術の方がよいと考えられています。

 

✔︎ 動脈瘤が発生している血管(中大脳動脈)を巻き込んでいる。

✔︎ 比較的浅い場所の手術になるので、脳動脈瘤に到達しやすい。

✔︎ クリッピング術は、きちんと治すことができる。

 

中大脳動脈瘤は、発生母地となっている大切な血管(中大脳動脈)を立体的に巻き込んでいる場合が多いため、血管をきちんと残すように脳動脈瘤を処置しなければなりません

 

例えば以下に紹介するような未破裂中大脳動脈瘤を「コイル塞栓術」で治療してしまうと、コイルが脳動脈瘤からはみ出して、大切な血管をつまらせてしまいます。

 

未破裂脳動脈瘤、クリッピング術

 

また中大脳動脈瘤は、他の脳動脈瘤と比べて脳の浅い部分でとらえることができるので、手術に慣れた脳神経外科医であれば、比較的短時間で到達しやすい場所になります。

 

手術が比較的しやすい場所で、しかも大切な血管を残して脳動脈瘤をきちんと処置できるのであれば、未破裂中大脳動脈瘤の治療は「クリッピング術」に決まりですね ^ ^

 

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まとめ

「未破裂脳動脈瘤の治療を行うかどうか?」に関しては、非常にデリケートな問題なので一概には決めることができません。

しかし未破裂脳動脈瘤が破裂して「くも膜下出血」を起こしてしまった場合、45.8%の人は手足の麻痺などの身体機能障害が残ってしまい23.4%の人が最終的に亡くなってしまうという報告もあります。

今回のAさんのように比較的若くて、しかもブレブがあるような破裂しやすいタイプの脳動脈瘤であれば、積極的に治療を考えた方がよいでしょう。

(僕自身なら絶対に手術を受けます!)

 

未破裂脳動脈瘤は”治らない病気”ではありません

脳の検査をしてたまたま脳動脈瘤が見つかって、落ち込む患者さんがたくさんいらっしゃいますが、そんな姿を横目に僕はいつも次のように声をかけています。

 

「破裂する前に見つかって、本当にラッキーでしたね!

 

破裂する前に見つかって本当によかった〜!とすぐに思うことは正直難しいです。

でも世の中には”治らない病気”もたくさんあります。

5歳で亡くなった悪性脳腫瘍の子供さんの主治医をしたこともありますが、そんな小さな子供さんでも最後まで抗がん剤のつらい治療を頑張ってました。

脳の手術って本当に恐いと思いますが「未破裂脳動脈瘤は治る病気なんだ」と思い、少しでも前向きに治療を考えることができるようになるといいですね ^ ^

 

それではまた!

 

上山博康、脳梗塞、頚動脈狭窄、頚動脈内膜剥離術、CEA

 

※「未破裂脳動脈瘤の治療」に関する詳しい話はこちらの記事へ→

 

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