「命を助けたい」と思いながら手術したことは、今までの医師人生でたった一度しかなかった。

命を助ける手術

 

脳神経外科手術をしている時に「この患者さんの命を絶対に助けたい」と思いながら手術をしたことは、今までの医師人生の中で、たった一度しかありませんでした。

予定手術だけでなく、今すぐ手術をしないと患者さんが死んでしまうというような緊急手術の時ですら「命を助けたい」と思いながら手術をしたことはありません。

 

でも、僕は何も考えずに手術をしていた訳ではありません。

もちろん「この患者さんの命を助けたくない」なんて思いませんでした。(大前提として)

患者さんだけでなく、手術室のスタッフにも負担がかからないように、出来るだけスピーディーに手術を進めることはいつも心がけていました。

でも、自分の手術をしながら、いつも必ず思い続けていたことが一つだけあります。

それは、

 

「自分の執刀する手術を、芸術品のように美しく仕上げる」

 

ただ、これだけです。

 

脳腫瘍や脳動脈瘤などの病巣を、芸術品のように「美しく処置する」ことにこだわりました。

正常な脳や血管を「傷ひとつない美しい状態」で手術を仕上げることに固執していました。

また、脳の手術をしたと気がつかれないくらい、髪の毛の刈り方も最小限にしたり、髪の毛を全く刈らずに手術(無剃毛手術)もしていました。

わずか1mmに満たない超細い血管でも、損傷してしまえば患者さんの手足が動かなくなるという超スリリングなミクロの世界を、一人の芸術家として心の底から楽しんでいたのかもしれません。

自分の芸術作品の「仕上がり」だけにこだわり、手術中に「命を助けたい」なんてこれっぽっちも思わなかったのですが、僕が執刀したほとんどの患者さんの手術は上手くいき、みなさん笑顔で退院してくれました。

 

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ただ、今までの医師人生の中でたった一度だけ「絶対にこの命を助けたい」と思い続けながら手術をしたことがあります。

その患者さんは1歳にも満たないかわいい男の子でした。

病院に救急搬送される直前まで、母親の運転する車の助手席に、チャイルドシートどころかシートベルトもせずに乗せられていました。

そして、その母親が運転中に携帯電話を見ていたのが原因で、対向車と衝突事故を起こしてしまったのです・・・。

 

その男の子はダッシュボードで全身を強く打ち、昏睡状態となって救急搬送されてきました。

全身のCT検査をすると、頭の中に急性硬膜下血腫を起こしていて、脳ヘルニアという危険な状態となっていたため、すぐに全身麻酔をかけて緊急の開頭手術となりました。

髪の毛を手早く刈り、頭の皮膚を大きく切り、頭蓋骨を外し、脳の中の血腫(出血の塊)をわずか10分くらいで取り除きました。

「この小さな男の子の命を助けたい!」

僕はこの一心のみで緊急手術を行ったことを、今でも鮮明に覚えています。

 

「もうこれで安心だ・・・」

 

手術も終盤にかかり、一安心していたところ、麻酔科医が僕たち脳神経外科医に向かって叫び出したのです。

 

「あ、ダメだ、血圧が下がってきた!これ、死んじゃいますよ!!」

 

「えっ!?なんで??」

 

僕たち脳神経外科チームは焦りました。

とにかく急いで閉頭し、手術を終えないと危険なことには変わりありません。

とにかくこの男の子を助けなければ!という気持ちだけで、めいいっぱいのスピードで手術を進めたのですが、麻酔科医の悲痛な叫び声とともに、その男の子は亡くなってしまったのです・・・。

 

全身を強く打ち付けていたため、他の臓器からの出血が原因の出血性ショックでした。

脳神経外科の手術ができるとはいえ、地方の病院ではすぐに輸血ができない施設も多いという現状があります。

後にも先にも、手術中に自分の患者さんが亡くなったのは、この男の子だけでした。

 

手術のために開かれた頭蓋骨を元に戻し、髪の毛の無くなった男の子の頭の皮膚を縫っている時に、自然と涙が出てしまいました。

自分の担当の患者さんが亡くなって涙が出たのも、今思えばその男の子が最初で最後でした。

涙がメガネの裏に落ちて水たまりを作り、僕の視界をさらにボヤかしました。

夜間休日の緊急手術を入れると、面倒くさそうにいつも文句を言い続ける麻酔科の先生も、何も言わずに静かに記録をつけていました。

 

くも膜下出血、治療、水頭症

 

その男の子の母親も、足の骨の開放骨折のため、隣の手術室で整形外科チームが緊急手術を行っていました。

手術は無事終わったのですが、自分の大切な息子が術中死をしたということを告げられて、隣の部屋まで響き渡るような大声で泣いていました・・・。

先に手術を終えた母親の方が退室するにあたり、一眼でも我が子を見たいということで、脳神経外科の手術室の入り口までストレッチャーで運ばれてきました。

ストレッチャーの上で横になったままの母親は、涙でグシャグシャになった顔をこちらに向け、大声で、何度も何度も、男の子の名前を呼び続けました。

でも、その母親の声が、男の子に届くことはありませんでした・・・。

 

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脳神経外科医をしていると、人の生死に関わる機会が非常に多くなります。

頭部外傷や脳の病気で亡くなる人の中には、きちんと予防しておけば命まで失うことはなかったのに・・・と、残念に思われる場合も多々あります。

特に交通事故は、ちょっとした心の隙から起こるものばかりです。

一つしかない命なので、大切にしましょうね ^ ^

 

医師、アキラッチョ

それではまた!

 

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