脳出血

脳出血の意外な合併症!命をおびやかす3つの病気

脳出血、合併症

脳出血高血圧が原因で脳の中に出血を起こし、手足の麻痺や言語障害だけでなく命をおびやかすこともある恐い脳の病気です。

しかし脳出血は脳だけにとどまらず、消化器など全身の病気も引き起こすことがあります。

実際には、この合併症のために亡くなられる患者さんもいるくらいです。

今回は脳出血に合併する3つの全身性の病気について詳しく解説していきます。

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【目次】

脳出血って脳の病気だけじゃないの?

脳出血」と言えばまず浮かんでくる一般的な症状は次のものが挙げられます。

・手足が麻痺して動かなくなる

・言葉がしゃべれなくなる

・ものが飲み込みにくくなる

・視野が半分かけて見えなくなる

・意識が悪くて寝たきりになってしまう

出血する部位や大きさにもよりますが、脳出血で脳の機能が障害されることによって、さまざまな神経機能障害をきたします。

そしてこれらの神経機能障害だけではなく、思わぬ全身性の合併症を起こすことがあるのです。

特に重症の脳出血を起こし、体が不自由になってベッドの上で生活を余儀なくなされている患者さんに全身性の合併症が多い傾向があります。

中には脳出血が原因ではなく、この全身性の合併症のために命を落とす患者さんもいます。

それでは早速、代表的な3つの危険な合併症を紹介していきます。

脳出血!3つの危険な合併症

重症の脳出血を起こして半身麻痺になり、ベッド上での生活時間が長くなってしまうと、次に挙げる3つの全身性合併症のリスクが非常に高くなってきます。

肺炎

消化管出血

深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)

これらの合併症は、悪化すると命に関わるような病気ばかりです。

なぜこのような脳以外の合併症が起こってしまうのでしょうか?

それぞれの病気について、詳しく解説していきます。

肺炎

まず「肺炎」ですが、呼吸を行なっている肺に細菌などが感染して炎症を起こす病気です。

脳出血を起こした患者さんは「嚥下障害(えんげしょうがい)」といって、ものを飲み込み機能が悪くなる症状を起こすことがあります。

通常であれば口から食べたものは、食道を通過して胃の方へ送られますが、嚥下障害を起こしている患者さんは上手に食道の方へ食べたものを送り込むことができず、間違って肺の方へ食べたものが行ってしまうことがあります。

その食べたものと一緒に肺へ入ってしまった細菌が増殖し、肺の中で悪さをし始めるのが肺炎です。

肺炎を起こすと咳や痰が多くなって酸素をうまく身体に取り込めなくなったり、高い熱が出て全身状態が悪くなってしまうことがあります。

特に高齢者の中には、元々嚥下機能が悪い人もいるので、脳出血を起こすことでさらに嚥下機能が悪化して肺炎を起こしやすくなることもあります。

また重症脳出血の患者さんは意識が悪いため、自分で食事を食べることができないだけでなく、唾液を飲み込むこともできなくなる場合もあります。

自分の口の中や唾液中にも細菌がたくさん住み着いているので、この細菌混じりの唾液が肺にそのまま流れ込んでいくと、やはり肺炎を起こすことになります。

食事や唾液が原因で起こる肺炎を「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」と呼んでいますが、この誤嚥性肺炎は脳出血で起こる合併症の代表格なのです。

肺炎

消化管出血

消化管出血」とは、胃や腸などの消化器出血を起こす病気で、便と一緒にお尻から出血して貧血を起こす恐い病気です。

なぜ脳出血で全く関係なさそうな消化器に出血を起こすのでしょうか?

その原因は脳出血を起こしたことによる「ストレス」になります。

脳出血で手足の麻痺などの身体機能障害を起こすと不自由になるので、脳出血をする前と同じような生活をすることができなくなります。

そのもどかしい自分の身体のことが日々ストレスとなって積み重なり、最終的に消化管出血を起こしてしまうのです。

脳出血の患者さんが起こす消化管出血には、次のようなものがあります。

胃潰瘍

十二指腸潰瘍

虚血性大腸炎

脳出血によって急激なストレスの負荷がかかると、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を起こし出血することがあります。

そして血液は胃酸によって酸化されて黒くなります。この酸化されて黒くなった血液が混じった便を「黒色便」と呼んでいます。

出血があまりにもひどい場合は、かなり貧血が進むことがあります。

この胃潰瘍や十二指腸潰瘍から出血するものを「上部消化管出血」と呼んでいます。

また脳出血で体を動かすことができなくなることがきっかけになって便秘を起こす患者さんもいます。

大腸を栄養する血管に動脈硬化があるような高齢の脳出血患者さんは、便秘がきっかけで大腸に血液が十分行き届かなくなり、虚血性大腸炎を起こすことがあります。

大腸からの出血は「下部消化管出血」と呼ばれていて、この場合の血液は胃酸による酸化を受けていないため、新鮮な赤い血液が便に混じって排泄されます。

同じ消化管出血でも、出血する場所によって便に混じる血液の色が変わってくるのです。

消化管出血は、ひどい脳出血で全く意識がなくなってしまうような患者さんにも起こります。

重症であればあるほど消化管出血を起こす患者さんは多くなります。

脳出血で意識が全くない患者さんでも、消化管出血を起こすほどの非常に強い精神的ストレスを受けていることが想像できます。

消化管出血

深部静脈血栓症

深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)」は下肢の静脈血栓(固まった血の塊)ができてしまう恐ろしい病気です。

この深部静脈血栓症を起こしてしまうと、下肢の静脈にできた血栓が肺の方まで流れて行って肺の血管を閉塞してしまう「肺塞栓症(はいそくせんしょう)」を引き起こします。

「肺塞栓症」は肺の血管がつまってしまうため、血液に酸素を取り込めなくなったり全身に血液を送ることができなくなる非常に恐い病気です。

この肺塞栓症を起こした人の死亡率は実に10〜30%と言われています。

原因となる深部静脈血栓症は「エコノミークラス症候群」が有名ですが、長時間動かない(または動けない)状態が続くことで下肢の血液が滞り、その血液が凝固して血栓ができてしまう病気です。

重症の脳出血の患者さんは、意識が悪くて自分で手足を動かすことができない人が多いので、このような深部静脈血栓症ができやすくなります。

両下肢がむくんできたり、色がおかしくなってくるような場合は要注意です!

脳出血、患者

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脳出血の合併症を予防する!

この3つの全身性合併症を予防するためにはどうすればよいのでしょうか?

重症脳出血患者さんの中でも特に高齢者の患者さんは、全身合併症との戦いが治療のウェイトをかなり占めることもあります。

それでは実際に我々が行なっている、合併症の予防方法について紹介していきます。

肺炎の予防

肺炎は一度起こしてしまうと非常に厄介です。

ひどい場合は人工呼吸器が必要になったり、そのまま全身状態が悪化して亡くなる患者さんもいます。

この肺炎をできるだけ起こさないようにするために、以下の予防を行なっています。

嚥下機能評価

嚥下機能訓練

・食事をきざんだり、トロミをつけたりする

飲み込みが悪そうな患者さんは入院してすぐに食事を始めるのではなく、まずリハビリの先生に嚥下機能を評価してもらってから食事を開始します。

嚥下が大丈夫そうでも油断はできません。

リハビリの先生の指導のもと、嚥下機能の訓練を行います。

また食事をきざんで小さくしたり、トロミをつけたりして、飲み込みやすい食事を提供します。

意識があまりにも悪い脳出血患者さんは、残念ながら食事をすること自体できなくなるので、お腹にチューブを留置して流動食による栄養管理を行わなければなりません。

脳出血によって意識が非常に悪い患者さんでも少しずつ回復する場合もあります。

楽しみ程度にはなりますが、最終的にアイスクリームやヨーグルトなどを食べることができるようになる患者さんもいるので、希望をもってリハビリを続けることが大切です。

消化管出血の予防

消化管出血でも特に上部消化管出血については、胃酸を抑える薬を投与することで予防します。

胃酸を抑える薬は次の2種類のものがあります。

プロトンポンプ阻害薬・・・オメプラール®︎

H2受容体拮抗薬・・・ガスター®︎

この2種類の薬でも特にプロトンポンプ阻害薬の方が、消化管出血をより予防することができたという研究データがあります。

脳出血の全患者さんにこれらの薬を使う必要はありませんが、重症度の高い脳出血や高齢の患者さんには積極的に使った方がよさそうです。

深部静脈血栓症の予防

深部静脈血栓症は、自分で動くことができなくなるような重症の脳出血患者さんに起こりやすい病気です。

予防法としては「間欠的空気圧迫法」になります。

これは脳出血患者さんの下腿(かたい)に、自動的に膨らんだりしぼんだりするマッサージ機を装着して血液が滞らないようにする方法です。

試しに僕も装着してみたことがありますが、非常に気持ちがいいです^ ^

以前は「弾性ストッキング」という硬めのストッキングを履いて、下肢の血液が滞らないように予防していましたが、この弾性ストッキングには深部静脈血栓症を予防する効果がないことがわかりました。

弾性ストッキングの締めすぎで、脚の皮膚潰瘍ができたりすることもあるので、現在では脳卒中治療ガイドラインでも行わないように勧められています。

まとめ

脳出血では思わぬ全身性の合併症を起こします。

今回紹介した3つの合併症は死亡率も高い病気ばかりなので、重症度の高い脳出血や高齢の患者さんでは特に注意が必要です。

また小さな脳出血で、ほとんど後遺症が残らないような患者さんでも、かなりの精神的なショックを受けてうつ病になってしまう人もいます。

脳出血の重症度と患者さんの受ける精神的ショックは決して正比例はしないのです。

脳出血の治療や身の回りのケア以上に、一番大切なのは精神的なケアなのかもしれませんね^ ^

それではまた!

医師

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