脳梗塞の原因となる「頚動脈狭窄」(けいどうみゃくきょうさく)は、脳に血液を送る首の血管が動脈硬化やプラークなどで狭くなる病気です。
頚動脈にできたプラークが破綻して脳の血管に血栓を飛ばし、脳梗塞や一過性脳虚血発作を起します。
症状を起こすような症候性頚動脈狭窄があれば、血液をサラサラにする抗血小板薬による治療を行いますが、あまりにも頚動脈狭窄がひどい場合は外科的治療である「頚動脈内膜剥離術(CEA)」という手術が必要になってきます。
今回は、この頚動脈内膜剥離術についてのお話です。
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【目次】
頚動脈内膜剥離術(CEA)の手術適応は?
脳梗塞の原因となる「頚動脈狭窄」も、狭窄度は様々なものがあります。
高度の狭窄でも全く症状がなかったり、逆に軽度の狭窄でも脳梗塞や一過性脳虚血発作を起こす場合もあります。
脳卒中治療ガイドライン2015で推奨されている手術適応について、原文が難しいのでわかりやすく書き直してみます。
・症候性(脳梗塞や一過性脳虚血発作を起こしている)の中等度から高度の頚動脈狭窄は、薬の治療に加えて、手術の上手な先生に頚動脈内膜剥離術をしてもらった方が良い。
・無症候性(症状のない)の高度頚動脈狭窄は、薬の治療を十分行なった上で、手術の上手な先生に頚動脈内膜剥離術をしてもたった方が良い。
・軽度から中等度の頚動脈狭窄でも、症候性のものであれば頚動脈内膜剥離術をしてもらった方が良い。
まだわかりにくいですね ^ ^
要するに「脳梗塞や一過性脳虚血発作を起こすような頚動脈狭窄は、すべて手術!」ってことになります。
もう一つは「なにも症状がなくても狭窄が高度であれば、手術を検討!」ということになります。
頚動脈内膜剥離術(CEA)はこんな手術です
頚動脈内膜剥離術(CEA)を一言で説明するなら「首の血管の大掃除」という手術になります。
今回は「右半身の脱力発作」で発見された「左内頚動脈狭窄」の患者さんの手術です。
まずは頚動脈の解剖ですが、顎の少し下のところで「総頚動脈」から「内頚動脈」と「外頚動脈」に分かれます。
下の写真は、その分岐するところを剥き出しにしたものになります。
青い点線のところが総頚動脈から内頚動脈にわたる切開線になります。
ちょうど内頚動脈が分岐したところに、脳梗塞の原因となる大きなプラークが隠れているのです。
血管を切り開くと、中にプラークの塊が見えてきます。
手術中は頚動脈を遮断しなければならないので「シャント」と呼ばれるチューブを介して血液を脳へ送り続けるようにしています。(写真の赤いチューブです)
頚動脈の内側のプラークを、血管の壁からペリペリと剥ぎ始めているところです。
プラークを剥がしている最中に、柔らかいプラークがブジュ〜!って飛び出してくることがあります。
プラークが頭の血管に飛んで行く前に手術してよかったなあって、つくづく思う瞬間です。
そしてこんな感じに頚動脈にできたプラークを丁寧に剥がして行きます。
プラークがびっしりついている患者さんは、どこまで剥がしてもキリがないこともあります。
剥がしきれなくて残ったプラークは、剥がれて脳の血管へ飛んでいかないように、細い糸で血管の壁に縫い付けたりします。
頚動脈のプラークをすべて取り除いた頚動脈の内側になります。
年末の大掃除じゃないけど、きれいスッキリになりました!
開いた頚動脈を丁寧に縫い合わせて手術終了になります。
あとは楽しいお正月を迎えるだけです ^ ^
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頚動脈内膜剥離術(CEA)の手術合併症3つ
頚動脈内膜剥離術(CEA)ですが、例えば70%以上の頚動脈狭窄がある患者さんにこの手術を行うと、脳梗塞のリスクを26%→9%に下げたという報告もあります。
脳外科手術の中でも基本的な手術なのですが、やはり心配されるのが約5%くらいの確率で起こると言われている手術合併症です。
最後に頚動脈内膜剥離術の主な手術合併症を3つ紹介していきます。
脳梗塞
まずは手術合併症としての「脳梗塞」です。
頚動脈を遮断して脳への血流を一時的に止めたり、プラークを取り除く際に血栓を作ってしまうことが原因で、思わぬ脳梗塞を起こしてしまう危険性があります。
頚動脈内膜剥離術は、脳梗塞の予防目的で行う手術なのですが、手術をすることで脳梗塞が悪化してしまうという事態はなんとしてでも避けたいものです。
過灌流症候群
頚動脈内膜剥離術を行なって頚動脈の狭窄が解除されると、脳への血流が一気に増えることになります。
その増えた血流で脳がびっくりして、以下のような症状を起こすことがあります。
・頭痛
・痙攣(けいれん)
・脳出血
これは「過灌流症候群」(かかんりゅう症候群)と呼ばれる恐い合併症で、バイパス手術でも起こることがあります。
この過灌流症候群を乗り切るためには、厳密な血圧管理が必要になってきます。
血圧を適度に下げることで血流のコントロールを行い、徐々に脳を慣れさせていく治療を行います。
術後出血
最後は「術後出血」です。
どんな手術でも、やはり人の体を切って治療する限り術後出血という合併症はつきものになります。
その中でもこの頚動脈内膜剥離術で起こる術後出血は、とんでもない事態になってしまう場合があるのです。
頚動脈のプラークを摘出した後、血管の壁を元どおりに縫合するのですが、縫合不全があると動脈からの出血なのでハンパない出血を起こすことになります。
そして頚動脈の近くには「気管」(きかん)が通っているので、術後出血でできた血腫によってその気管が圧迫されると、首を締められているのと同じで呼吸ができなくなってしまいます。
緊急で人工呼吸器をつけたくても、血腫で圧迫された気管にチューブが入らないので、緊急で再手術しなければ最悪の事態になってしまいます・・・。
まとめ
今回は頚動脈狭窄に対する手術「頚動脈内膜剥離術(CEA)」のお話をしました。
内科的な薬の治療だけでもかなり脳梗塞を予防することができるようになってきていますが、この手術をしていていつも思うことがあります。
「やっぱり手術でプラーク取っておいて正解だったなあ」と。
手術操作をしている際にプラークが破綻して、ドロドロの柔らかいプラークが飛び出してきたり、実際の血管の中でプラプラと剥がれて飛んでいきそうなプラークに遭遇すると、頚動脈内膜剥離術がいかに根治性の高い治療かを痛感します。
頚動脈狭窄を切らずに治す「頚動脈ステント留置術(CAS)」という治療法もありますが、再狭窄を起こす患者さんも時々見受けれらるので、切って治す頚動脈内膜剥離術の方に分があると僕は考えています。
頚動脈狭窄の治療については色んな治療法があるので、主治医の先生としっかり話をして決めていく必要があります ^ ^
それではまた!