「脳梗塞」は脳の血管がつまってしまい、脳に十分な酸素やエネルギーを送ることができなくなることで、脳に不可逆性の障害を起こしてしまう恐い病気です。
脳梗塞で亡くなる日本人は一年間で約6万4000人(平成27年)もいて、男性と女性の比率はほぼ同じとなっています。
脳外科に入院する患者さんで一番多い病気が脳梗塞です。
僕自身の経験ですが、忙しい病院に勤務していた時には一晩で4人の脳梗塞患者さんを入院させたこともあります。
今回は脳卒中の中でも最も多い病気である「脳梗塞」の原因や症状について詳しく解説していきます。
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【目次】
脳梗塞が起こる3つのメカニズム
脳梗塞は脳の血管が突然つまってしまう病気です。
血管につまるものは血栓(けっせん)と呼ばれる血液の塊ですが、つまり方にもいろいろなパターンがあり、それぞれの治療法は異なります。
まずは脳梗塞が起こる3つのメカニズムをそれぞれ紹介していきます。
血栓性脳梗塞
血栓性(けっせんせい)脳梗塞の原因は、脳血管の動脈硬化です。
動脈硬化が進行することで、脳の血管が徐々に狭くなっていきます。
その狭くなった血管が、最終的に血栓によって完全につまってしまうのが血栓性脳梗塞です。
塞栓性脳梗塞
塞栓性(そくせんせい)脳梗塞は、心臓や頚動脈(首の血管)にできた血栓が、血液の流れに乗って脳まで飛んで行くことで起こる脳梗塞です。
代表格は心臓の不整脈が原因となる「心原性脳塞栓症」です。
心房細動(しんぼうさいどう)という心臓がブルブルと震えるような不整脈が起こると、心臓の中に滞った血液が固まって血栓を作ります。
この血栓は比較的大きいため、突然脳へ飛んでいくとかなり太い血管がつまってしまうことになり、重症の脳梗塞を起こすことが多いです。
血行力学性脳梗塞
動脈硬化などが原因で脳の血管が狭くなっている時に、血圧が下がったり、脱水で血液の量が減ってしまうとどうなるでしょうか?
狭くなった脳血管の先に、十分な血液を送り込むことができなくなりますよね?
この脳血流低下に伴って起こるの脳梗塞が「血行力学性脳梗塞」になります。
夏の暑い日に、炎天下で畑仕事をしているおじいちゃんやおばあちゃんは脱水になりやすいため、この血行力学性脳梗塞を起こすことが多いです。
脳梗塞のタイプは3つある
脳梗塞を起こすメカニズムは「血栓性」「塞栓性」「血行力学性」の3つがありました。原因がそれぞれ異なるので、治療方針も異なってきます。
そして実際の脳卒中臨床の現場では、脳梗塞の原因や大きさなどを加味したタイプ別分類も行なっています。
それでは脳梗塞の3つのタイプを紹介していきます。
ラクナ梗塞
「ラクナ」とは「小さな穴」という意味で、その名前の通り小さな脳梗塞(直径が1.5cm未満)になります。
ラクナ梗塞の原因は「高血圧」や「動脈硬化」になります。
高血圧の状態が続くと、脳の血管壁には強い圧力がかかり続けることになります。それに伴って血管の壁は(あたかも筋トレをするように)分厚くなってくるのです。
脳血管の中でも穿通枝(せんつうし)と呼ばれる非常に細い血管の壁が分厚くなってくると、もともと細くて狭い血管がさらに狭くなってしまうので、ちょっとした血栓ができても簡単につまってしまいます。
この穿通枝がつまって起こる小さな脳梗塞が、ラクナ梗塞なのです。
ラクナ梗塞は非常に小さな脳梗塞なので、場所によっては症状が現れず、脳梗塞を起こしたことさえ気がつかない場合もあります。
しかし運動神経がギューっと集まっているような大切な部分にラクナ梗塞を起こしてしまうと、非常に小さな脳梗塞にも関わらず、とんでもなく重症な麻痺症状を起こすこともあります。
決して”楽な(ラクナ)”梗塞ではありません。
アテローム血栓性脳梗塞
「アテローム」とは、元々ギリシャ語で「粥(かゆ)」という意味になります。
脳や首の血管内で、コレステロールなどが粥のように固まって動脈硬化を起こしているものを「アテローム硬化」と呼んでいます。
アテローム硬化が進んだ血管は内腔が狭くなってきます。ここに血栓ができてつまってしまうのが「アテローム血栓性脳梗塞」なのです。
比較的大きな脳の血管がつまってしまうことが多いため、脳梗塞の大きさとしてはラクナ梗塞よりも大きくなります。
脳梗塞のサイズが大きい分、ラクナ梗塞よりも重篤な症状が出てしまう傾向があります。
心原性脳塞栓
「心原性脳塞栓(しんげんせいのうそくせん)」は塞栓性脳梗塞の代表格です。
先ほどの「塞栓性脳梗塞」のところで解説した通りですが、心臓がブルブルと震えるような「心房細動」と呼ばれる不整脈が起こると、心臓の中に滞った血液が固まって血栓を作ります。
心臓の中でできる血栓はかなり大きいサイズのものになり、この大きな血栓が突然脳へ飛んでいくことで、脳の太い血管をつまらせてしまいます。
脳を栄養する血管は、内頚動脈(ないけいどうみゃく)という太い血管から分岐して脳全体に広がっていますが、心臓から飛んでくる血栓は、この最も太くて重要な内頚動脈を根元から完全につまらせてしまうこともあります。
脳梗塞の3つのタイプの中で、最も重症の脳梗塞になるのが心原性脳塞栓症なのです。
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脳梗塞の4つの初期症状に注意!
脳梗塞という病気は、気がつかないうちに起こっている場合もあります。
専門的には「無症候性(むしょうこうせい)脳梗塞」、また俗に「隠れ脳梗塞」と呼ばれているものです。
それに対して体になんらかの症状が出る脳梗塞は「症候性脳梗塞」と呼ばれ、問題となるのはこちらの脳梗塞になります。
また脳梗塞の中には前兆が出るタイプのものもあります。
これは「一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)」と呼ばれ、脳梗塞の症状が一過性に出現し、時間が経つと何もなかったかのように元に戻ってしまうという特徴があります。
一過性脳虚血発作は脳梗塞の前段階と考えられています。
また脳梗塞は起こす場所や、大きさによっても様々な症状が出現します。
脳梗塞のタイプや脳梗塞を起こす場所、大きさなどを考えると話が難しくなるので、まずは脳梗塞を起こした時にはどんな症状が出現するのかを知ることが重要です。
(同じ症状でも全く違う場所の脳梗塞ということもあります)
とりあえず「脳梗塞」という病気をひとまとめにして、この脳梗塞で起こる代表的な初期症状を4つ紹介していきます。
手足の麻痺
脳梗塞と言えば「手足の麻痺」というくらい、代表的な脳梗塞の症状になります。
通常、手足の麻痺は左手であれば左足に、右手であれば右足といったように、左右どちらかにそろって麻痺が出ます。
脳神経外科の外来には、次のような患者さんがよく来られます。
「先生〜、ずっと前から両手が痺れるんや。脳梗塞やと思うからすぐにMRIで調べてや〜」
この「両手」が痺れるっていう症状は、通常の脳梗塞ではありません。やはり左か右かのどちらかに痺れた症状が出るはずです。
またかなり時間が経過しているので、今更緊急でMRI検査をしてもあまり意味がないのです。
(まあでも、ずっと前に両側の脳に同時に脳梗塞を起こしたという可能性もゼロではないので、一応検査の予定は立てますが・・・)
言語障害
脳梗塞を起こすと「言語障害」を起こすことがあります。
言語障害は「言語機能」に障害が出るのですが、大きく分けて次の2種類があります。
・構音障害(こうおんしょうがい)
・失語症(しつごしょう)
まず「構音障害」ですが、言葉を話すことはできるのですが、呂律(ろれつ)が回らなくなって何を言っているのか聞き取りにくくなります。
この構音障害に対して「失語症」とは、言葉を失ってしまう症状が出現します。
話したくても言葉を全く話すことができなくなる「運動性失語」と、言葉を全く理解することができなくなる「感覚性失語」とがあります。
この言語機能障害もわかりやすい症状なので、脳梗塞の初期症状としては見逃さないようにしなければなりません。
めまい
「めまい」という病気は、ほとんどの場合が耳の奥の「内耳(ないじ)」という部分の障害で起こります。
内耳の障害から起こるめまいは、グルグルと目が回るような「回転性めまい」になるという特徴があります。
それに対して脳梗塞を起こした時のめまいは、フワフワと船に揺られるような「浮動性(ふどうせい)めまい」を起こします。
フワフワとして真っ直ぐに歩くことができなくなったり、じっとその場に立てなくなるようなめまいを起こした場合は脳梗塞の可能性が高くなります。
この浮動性めまいから起こる脳梗塞は、脳の中でも特に大切な部分の脳梗塞を起こしている場合が多いので、特に注意が必要です。
視野障害
最後は「視野障害(しやしょうがい)」ですが、脳梗塞を起こすと見ているものが部分的に見えなくなることがあります。
人間は目で見たものを脳の後ろの方(後頭葉)で認識しているのですが、この部分に脳梗塞を起こすと見ているものの一部を認識できなくなるのです。
目が見えにくくなったということで、最初に眼科を受診される患者さんもいます。
目を調べても全く異常がないのに、視野検査をしてみると視野の一部(時には半分バッサリと)が欠けているような場合は、脳梗塞の可能性が高くなります。
もちろん、眼科の先生はこのような脳梗塞の患者さんに遭遇する経験があるので、きちんと脳神経外科に相談してきてくれますからご安心ください^ ^
まとめ【医師からのアドバイス】
脳梗塞を起こすメカニズムは「血栓性」「塞栓性」「血行力学性」の3つがありました。
また脳梗塞のタイプは、穿通枝と呼ばれる細い血管がつまって起こる「ラクナ梗塞」、比較的太めの血管が動脈硬化でつまって起こる「アテローム血栓性脳梗塞」、そして心臓から血栓が飛んで行って脳の血管に突然つまる「心原性塞栓症」の3つがあるということは解説してきた通りです。
メカニズムによる分類や、脳梗塞のタイプ分類など、少し難しい話だと思います。
しかし一番大切なことは、脳梗塞の初期症状を見逃さないことです。
例えば「手足の麻痺」という症状でも、脳のいろんな場所の梗塞で起こります。これはMRI検査をしなければわかりません。
そして脳梗塞ではなく、実は「脳出血」や「脳腫瘍」が原因だったということもあります。
何れにしても、今までできていたことが急にできなくなったり、急におかしな行動をとったりするような場合は、脳梗塞をはじめとする脳の病気である可能性が高くなります。
脳梗塞に限って言えば、発症から4時間30分以内であれば、血栓を溶かす治療をすることができます。
おかしいな??と思ったら、すぐに脳神経外科や神経内科のある救急病院を受診しましょう!
それではまた!