脳卒中の患者さんは、手足の麻痺などの運動機能障害を起こしてしまいます。
この運動機能障害を少しでも改善し、自立した生活を可能にするものが「リハビリテーション」です。
脳卒中を起こしたばかりの急性期の時期から、積極的なリハビリテーションを行う必要がありますが、安静臥床を余儀なくされて、取り返しのつかないような「廃用症候群」を起こす患者さんも少なくありません。
今回は、急性期脳卒中のリハビリテーションがいかに重要か!ということについてのお話です。
脳卒中の患者さんを安静に寝かしておくことは、ある意味では”罪”であることをわかっていただければ幸いです ^ ^
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【目次】
そもそも「リハビリテーション」とは?
脳卒中の患者さんだけでなく、骨折をして手術した患者さんや、心臓の手術をした患者さんなどなど「リハビリテーション」を受ける患者さんは非常に多いです。
この「リハビリテーション」ですが、次のように定義されています。
リハビリテーションとは、治療段階を終えた疾病や外傷の後遺症をもつ人に対して、医学的・心理学的な指導や機能訓練を施し、機能回復・社会復帰を測ることである。
引用:「広辞苑 第六版」より
リハビリテーションは英語で「Rehabilitation」と書きます。
”Re”とは”again”と同義で「再び」を意味します。
また、”habilis”は”able”と同義で「できる」を意味します。
少し難しい話になりましたが、リハビリテーションとは「再びできるようになること」を意味します。
今世紀前半の最大の医療課題として「多死社会」というものがあります。
2025年以降、これまで日本を支えてきた”団塊世代”の方々が、一斉に75歳以上の後期高齢者へ突入します。
そして死亡する人が2036年には年間176万人とピークに達すると推定されています。
この押し寄せる「多死」の周りには、障害を抱えて生活している人も多くなってきます。
すなわち「多死」だけでなく「多障害」の時代も同時に迎えることになるのです。
この障害を抱えている状態でも、平均寿命までは約10年の期間が残されています。
したがって、たとえ障害を抱えていたとしても、より幸せな生活を送るためには「リハビリテーション」というものが非常に重要になってくるのです。
急性期脳卒中リハビリテーションの最重要ポイント3つ
話を「急性期脳卒中」リハビリテーションに戻しましょう。
脳卒中を起こしたばかりの時期は、病状を悪化させないように患者さんを絶対安静にしている病院は少なくありません。
しかしこれは大きな間違いなのです。
特に高齢者ほど、絶対に安静臥床にしないことが最も重要になります。
脳卒中急性期の時期にこそしなければならない、リハビリテーションの最重要ポイントは次の3つになります。
・座らせる、立たせる
・刺激を与える
・運動させる
たったこれだけのことですが、医療の現場で100%行われているわけではありません。
この急性期脳卒中リハビリテーションを行わず「脳卒中を起こしたばかりなので、安静にしておかないと・・・」という”勘違い”をして安静臥床にしていると、患者さんの身体機能はどんどん悪くなるのです。
患者さんにとっては、”安静臥床”イコール”罪”なのです。
この”安静臥床”がもたらす身体機能への弊害について、4つに絞って紹介していきましょう。
筋力低下・筋萎縮
まず安静臥床にしておくと「筋力低下」および「筋萎縮」を起こします。
”安静臥床”の名の下に、リハビリテーションを全く行わなければ、どんどん筋力が落ちてくるのです。
例えば、一週間ほど寝たままの生活をしていれば、約10〜15%も筋力の低下を起こすことがわかっています。
この筋力低下を取り戻すためには、一ヶ月必要と言われています。
安静臥床の期間が長ければ長いほど、取り返しのつかないような筋力低下を起こしてしまいます。
高齢者の患者さんが寝たきりになってしまうのは、実は「治療の名の下の”安静臥床”」が原因なのです。
拘縮
続いて「拘縮(こうしゅく)」ですが、主に手や足の関節が硬くなって動かなくなることをいいます。
関節は「筋肉」「靭帯」「関節包」などで形成されていますが、伸ばされると延長し、縮めておくと短縮する性質を持っています。
したがって関節を動かさなければ、どんどん硬くなってしまいます。
この関節の拘縮は、約一週間で生じます。
ベッド上で一週間も安静臥床していれば、手足の関節が硬くなってしまい、曲げ伸ばしをすることさえできなくなってしまうのです。
骨萎縮
安静臥床によって「骨萎縮」が起こります。
骨という臓器は、荷重がかからなければどんどん骨吸収が進んで、骨粗鬆症のような状態になってしまいます。
安静臥床によって骨はどんどん弱くなり、自分の体重を支えることすらできなくなってしまいます。
循環血液量減少
2週間の安静臥床によって、循環血液量は20%も減少してしまいます。
安静臥床の名の下に「寝たきりの状態」にさせられていると、交感神経の活動が障害されてしまいます。
そのため手足の血管の収縮が不十分となり、血液が心臓に帰ることができなくなるため、手足むくんできたりするのです。
心臓の帰ってくる血液量が足りなくなると、脈が早くなったり(頻脈)、体を起こした時に血圧が下がってめまい感が出現する「起立性低血圧」などを起こしてしまうのです。
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まとめ
もう一度繰り返しますが、脳卒中急性期リハビリテーションの最重要ポイントは、①座らせる・立たせる、②刺激を与える、③運動させるの3つになります。
脳卒中急性期における”安静臥床”は、患者さんにとって麻薬のようなものです。
ずっと寝っぱなしなので、患者さんにとっては安楽でとても気持ちのいい状態です。
すぐに悪影響は出ませんが、確実に患者さんの心身の状態を悪化させています。
体を起こしたり、手足を使うリハビリテーションを行わなければ、どんどん身体機能の低下が進みます。
そのため寝たきり状態になってしまい、活動性が低下すればさらに手足を使わなくなってしまうため、廃用の悪循環が進んでしまうことになります。
だからこそリハビリテーションというものを「薬」や「手術」と同じように「病気の治療」と考えて、脳卒中急性期の段階で積極的に行う必要があるのです。
「重症脳卒中」ということで”安静臥床”を患者さんに強要している脳外科の先生や、「脳卒中急性期」の患者さんは動かすと危ない!って信じ込んでいる看護師やリハビリの先生は、今でも普通にいます。
一方で、人工呼吸器が装着されたり、手術して頭にチューブが入っているにも関わらず、数人がかりで患者さんを歩かしているような”すごいリハビリテーション”を行なっている病院もあります。
超急性期からどれだけ厳しい(激しい)リハビリテーションを行なっても、リハビリによって悪くなった患者さんは一人もいないとのことです。
どちらの患者さんが圧倒的によくなるかは、簡単に想像がつきますよね ^ ^
(手術前の「くも膜下出血」の患者さんだけは、かなり慎重にリハビリするみたいです)
活動性を維持するための最良の方法として「病院ではリハビリ」ですが「家ではスポーツ」になります。
運動することによって、生命予後を伸ばしたり、記憶や学習に関与するタンパク質が増加するという研究データもあります。
より健康で幸せな人生を送るためにも「体を動かす」ことは、非常に重要なのです ^ ^
それではまた!