脳梗塞

脳血栓の摘出手術!カテーテル治療を越えるゴッドハンドの話

脳梗塞、手術

 

発症4.5時間以内の脳梗塞であれば、t-PAによる血栓溶解療法でつまった血栓を溶かす治療を行います。

しかし太い血管に大きな血栓がつまるような脳梗塞では、なかなか血栓が溶けないためカテーテルによる血栓回収治療を追加で行わなければなりません。

カテーテル治療では約80〜90%と高い確率で血栓回収を行うことができますが、回収作業の時に細かく砕けた血栓が血流に乗って流れて行き、カテーテルが届かないところにつまってしまうことも時々あります。

 

「大きな血管は流れるようになったのだから、抹消(まっしょう)の細い血管が少しくらいつまってもいいじゃないか」と考えているカテーテル専門の先生も中にはいらっしゃいます。

しかし抹消の細い血管がつまっただけでも、重篤な手足の麻痺症状を起こす可能性はあります。

 

ほんのわずかな血栓もすべて回収したい・・・

 

血栓の回収率を100%に近づけたい・・・

 

そして脳梗塞の患者さんに障害なく退院して欲しい・・・

 

こんな思いを”口”だけでなく、信念を持って本気で治療に向き合っているすごい脳神経外科医がいます。

今回は血栓回収率100%」を目指したスーパー脳神経外科医の手術のお話をさせていただきます。

 

※ちなみにアキラッチョではなく、アキラッチョの師匠の話です ^ ^

 

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【目次】

左半身麻痺で救急搬送された53歳の男性患者さん

アキラッチョが以前”とある脳卒中センター”に勤務していた時の話です。

勤務先の病院は、僕の師匠であるスーパー脳神経外科医を頼って全国から患者さんが押し寄せてくるような病院で、毎日のように脳の手術が朝から晩まで行われていました。

その日も予定の手術を終え、(助手しかしていないのですが)ヘトヘトになって家に帰ったと同時に「手術になりそうな患者さんが搬送された!」という電話が病院から入り、そのまま晩御飯も食べずに病院へUターンしたのです。

 

病院に到着すると、居残りの若い先生がすでにカテーテル検査をしていました。

レントゲン操作室にはすでに何人か同僚の先生が集まって、検査モニターを眺めていました。

患者さんは53歳の男性で、晩御飯を食べた後でトイレに行こうとした際に、左半身が急に動かなくなってそのまま家族の目の前で倒れて救急搬送になった方でした。

左半身は自分で全く動かすことができなくなっていて、強く呼びかけなければ目を開けないくらい意識も悪くなっていました。

 

来院された時のMRI検査で右脳梗塞と診断し、そのままカテーテル検査を行なっていたのですが、もともと心房細動という不整脈があってワーファリン®︎という血液をサラサラにする薬を飲んでいたようです。

ワーファリンがきちんと効いているかどうかを調べる指標にPT(INR)という検査項目があるのですが、その値は2.15と安全かつ有効にコントロールできていたようです。

にもかかわらず、不整脈で心臓に血栓ができて、それが脳の血管につまってしまうという悲劇・・・。

この患者さんの脳のカテーテル検査の写真ですが、右の内頚動脈が完全につまってしまっていて、しかも左から流れてくる血流もほとんどない状態でした。

 

脳梗塞、手術、embolectomy

 

検査の結果、黄色の矢印のところに大きな血栓がつまっていることがわかったのです。

通常であればt-PAによる血栓溶解療法を行いたいのですが、ワーファリンを内服されていてPT(INR)の値が1.7を越えている患者さんは、血栓溶解療法は出血の危険を伴うため、行うこと自体が禁じられています。

そしてカテーテルによる血栓回収治療も当時始まったばかりで、まだ病院には導入されておらず、打つ手なしと諦めかけた時に検査室のドアがバーンと開かれました。

 

「お前ら何やってんだ!オペ室にすぐ上げろ!!」

 

スーパー脳神経外科医が到着したのです。そしてこの鶴の一声(汗)

あたふたと手術室に連絡を入れて、緊急手術の準備を大急ぎで始めたのでした。

 

深夜の緊急手術開始!

「オペ室にすぐ運べ!」の一声から、わずか30分足らずでの手術開始になりました。

まだ手術の準備が完全にできておらす、頭の皮膚にメスを入れている横では顕微鏡の準備や、細かい作業をするための手術道具を、手術室の看護師さんが走り回って準備していました。

そのドタバタ劇の中で、静かにかつものすごいスピードで手術が進んで行きます。

真剣を持って敵に対峙した時の侍のように、師匠は鋭い眼光で術野を睨みながら、あっという間に血栓のつまった血管まで到達しました。

(ちなみに周りはまだ手術の準備が完全に終わっていない状況でバタバタしています)

次の写真は右の内頚動脈ですが、血栓が中にがっしりとつまってしまっていて、外から見ても黒くて大きな血栓がはっきりとわかります。

 

脳梗塞、手術、embolectomy

 

この憎っくき巨大血栓のせいで、この患者さんは左半身麻痺を起こして意識もほとんどなくなっていたのです。

 

「ハサミ・・・」

 

師匠の右手にハサミがテンポよく渡されました。

そしておもむろに血栓のつまった血管をザックリと切ったのです。

切り口から血しぶきが上がるのかと一瞬身構えましたが、そこから顔をのぞかせたのは真っ黒い血栓でした。

そして師匠は特殊な鑷子(せっし)と呼ばれるピンセットで、その”憎っくき血栓”をつまみあげたのです。

 

脳梗塞、手術、embolectomy

 

ズルズル・・・ズルズル・・・

赤黒くてグロテスクな血栓が、引っ張り出されてきました。

もちろん無理な力を加えすぎてしまうと、まわりの細い血管に負担がかかって大出血して大惨事になります。

 

脳梗塞、手術、embolectomy

 

精密機械のような動きで、この大きな血栓を完全に摘出してしまいました。

そして切り開いた血管を、髪の毛よりも細い糸で縫合し、何もなかったかのように内頚動脈の血流は再開したのでした。

手術開始から血流再開、そして血管縫合までわずか30分という驚異的なスピードの手術でした。

 

脳梗塞、手術、embolectomy

 

手術直後の造影CT検査ですが、完全に閉塞していた右内頚動脈はきちんと流れており、また細かい血栓が抹消の方へ流れて行って、細い血管がつまってしまうような合併症も起こっていませんでした。

手術がすごすぎて興奮マックスのアキラッチョは、疲労困憊ですごく眠たいはずなのに、その日は中々寝付くことができませんでした。

 

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手術を終えた患者さんのその後は?

術後、この脳梗塞患者さんの意識はすぐに回復しました。

会話もできるようになって、食事も食べることができるようになりました。

救急搬送された時は自分で全く動かすことができなかった左手足は不完全ながらも動くようになり、平行棒内での歩行練習も行うことができるようになったのです。

バタバタ劇から約一ヶ月、社会復帰を目指してリハビリテーション専門病院へ無事に転院することができたのです ^ ^

 

もしあの時、検査室のドアがバーンと開いて鶴の一声がなかったら、この患者さんは左半身完全麻痺という重篤な後遺症が残っていたでしょう。

それ以上に内頚動脈が閉塞してしまうような重症脳梗塞は、外減圧術や内減圧術といった救命目的の手術も必要になっていた可能性が高いです。

 

※「内減圧術・外減圧術」の詳しい話はこちらの記事へ→

 

まとめ

血管につまった血栓を手術で摘出する治療法ですが、カテーテル治療に比べて優れている点を挙げてみましょう。

 

直視下(目で見て)で確実に血栓を摘出できる

・カテーテルが到達できない血管でも治療できる

・血管内手術の専門医がいない病院でもできる

 

実際カテーテルで血栓回収を行うためには、血管内手術の専門医の資格を持った先生がいる病院でなければ、治療をすること自体が許可されていないのが現状です。

また専門医の先生がいても、動脈硬化が強い患者さんではカテーテル操作が非常に難しいため、血栓がつまったところまでカテーテルを到達させることができない場合もあります。

そして血栓回収時に細かく砕けた小さな血栓が、血流に乗って抹消の脳血管をつまらせてしまうこともあります。

 

ここまで書くとカテーテル治療はいいところがないみたいですが、そんなことはありません

今回紹介した「脳血管を開いて、血栓を摘出する手術」は誰でもできる手術ではありません。

手術をする脳神経外科医の技量も重要なのですが、とにかくスピードが要求されるので「病院の体制」が一番重要になってきます。

いざ手術!となって脳神経外科医が意気込んでも、手術室が空いていないとか、手術看護師が足りないとか、そもそも脳の検査がすぐにできないということが多々あるので、この手術治療の前に立ちはだかる障壁は非常に高いのです。

 

今回アキラッチョが一番言いたかったことは(今更ですが)、日本にはすごい脳神経外科の先生がいる!ってことです。

大学病院や大きな総合病院で「治療は無理です・・・」とか「様子見るしかないです・・・」と言われた難しい脳の病気でも、助けてくれる先生が日本にもいるということは本当に心強いですね^ ^

 

それではまた!

 

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