脳梗塞は発症から4.5時間以内であれば「t-PAによる血栓溶解療法」を行うことができます。
またカテーテル手術による「血栓回収治療」は発症から8時間まで行うことが可能です。
その他にも、抗血栓薬の「点滴治療」や「内服治療」など、脳梗塞を治療するための手段は様々なものがあります。
しかしこれらの治療法を駆使しても、どんどん症状が進行してしまうタイプの脳梗塞があります。
それは「BAD」と呼ばれるタイプの脳梗塞で、その名前の通り”bad”(=悪い)な経過をたどることになります。
今回はこの治療抵抗性の脳梗塞である「BAD」について、詳しく解説していきます。
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【目次】
BADタイプの脳梗塞とは?
「BAD」とは「Branch - atheromatous - disease」の略になります。
この”branch”とは”枝”を意味しますが、「穿通枝(せんつうし)」と呼ばれる非常に細い脳の血管が、動脈硬化によって根元からつまってしまうのがBADタイプの脳梗塞になります。
根元のところでつまってしまうので、その穿通枝の走行に沿って”長い脳梗塞”を起こします。
まず根元のところが最初に血栓でつまり、そこから徐々に血栓化が進んでいくため、脳梗塞が時間の経過とともに大きく(長く)なってきます。
脳梗塞が大きくなるのに伴って、手足の麻痺などの神経症状が悪化してくるのです。
BADの特徴
BADの一番の特徴は「治療抵抗性」になります。
病院に入院して、強力な点滴治療や薬の治療をいくら行っても、日に日に症状が悪化してくることが多いです。
治療がほとんど効かないので、「悪性脳梗塞」とも呼ばれています。
また脳梗塞の診断にはMRI検査で行うのですが、以下に挙げる特徴的な画像所見があります。
・何スライスにもわたって、脳梗塞を起こしている
・日に日に脳梗塞が大きく(長く)なる
・MRA検査で、穿通枝を出している大元の血管が50%以上狭窄している
これらの画像的な特徴があり、また治療しても症状がどんどん悪化するような脳梗塞は、まずBADで間違いないでしょう。
またBADを起こす脳の場所ですが、「内包(ないほう)」や「放線冠(ほうせんかん)」といった脳の深いところや、「橋(きょう)」と呼ばれる脳幹部分に起こります。
いずれも非常に小さな領域に、大切な神経がギューっと集まっているところになりますが、BADはこれらの重要な場所に起こってしまうのです。
BADの治療法
悪性脳梗塞のBADですが、治療抵抗性ということもあって、これだ!という特別な薬がないのが現状です。
かといって我々脳神経外科医が指をくわえて、症状が悪化するのを眺めているわけではありません。
僕は脳神経外科医として、今まで何十人ものBAD患者さんの治療を行ってきましたが、とにかく急性期(脳梗塞を発症したばかりの時期)は、副作用の出血のリスクを覚悟の上で、強力な薬の治療を組み合わせて行うことが、BADによる症状の悪化を一番抑制できたという経験があります。
以下にその薬の組み合わせを紹介します。
【点滴治療】
・エダラボン(7〜14日間)
・アルガトロバン(7日間)
・低分子デキストラン+ウロキナーゼ(3日間)
※ 症状が悪化するようであれば、ヘパリンを追加
【内服治療】
・アスピリン+シロスタゾール
※ 病状が落ち着けば、どちらか一方の薬のみに変更
・スタチン
これだけの「血液をサラサラにする薬」の治療を初日から一気に始めます。
もちろん、これだけの薬を同時に使うと、治療に伴う副作用としての「出血」のリスクが非常に高くなりますが、これらの濃厚な治療を行うことで、病状の進行を抑制することができます。
ちなみに標準的な治療を行うだけでは、2〜3日で手足の麻痺などの症状が完成してしまい、二度と元に戻らなくなってしまいます。
僕はこれまで合計6つの病院で勤務してきましたが、同じBADという病気でも病院によって治療方針が全く異なりました。
色々な病院で経験し学んだことを、次の病院で生かしていくことで僕たち医師は成長し、患者さんによりよい治療を提供することができるようになります。
患者さんの命に関わることなので、一か八かという治療ではもちろんダメですが、自分の経験し学んできたことは、リスクの高い治療に「究極のさじ加減」を加えることができるようになります。
どんな仕事でも言えることですが、成功体験だけでなく、失敗した経験、ツライ経験が全て自分の糧になって、より優れた仕事ができるようになるのです ^ ^
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BADを予防するために気をつけてほしい「3つの病気」
最も危険な脳梗塞「BAD」ですが、できることならBADになる前に予防したいものです。
BADとその他の脳梗塞(ラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞)を比べた時に、BADの患者さんに多かった3つの病気があります。
・高血圧
・糖尿病
・脂質異常症
この3つの病気は、最も代表的な生活習慣病です。
「高血圧」「糖尿病」「脂質異常症」は、普通の脳梗塞の危険因子でもありますが、BADの患者さんでは特に頻度が高いことがわかっています。
あとは「高齢」であることもBADの危険因子になりますが、さすがに「老い」を予防することはできません。
ちなみに脳梗塞の中で最も軽症の「ラクナ梗塞」では、ほとんど後遺症なく生活できる患者さんは56.1%になりますが、このBADでは28.7%とかなり悪くなることがわかっています。
悪性脳梗塞と呼ばれているBADにならないためにも、日頃からの生活習慣には十分注意する必要がありますね ^ ^
アキラッチョは、みなさんの健康をいつもお祈りしています。
それではまた!