先日の外来診療の時の話です。
交通事故で入院している30歳代の若い女性患者さんが「首の後ろが痛い」ということで脳神経外科に紹介となりました。
頭のCT検査をしても異常がなく、首の骨のレントゲン検査をしても異常がありません。
入院生活が長いので、肩こりからの緊張型頭痛だろう?ということで、薬の治療を行なっていたのですが「首の後ろの痛み」は一向によくならないのです。
相談を受けたアキラッチョは、ある病気の名前をピンっ!と思いつきました。
そして、その患者さんに早速MRI検査を受けていただき、首の後ろの痛みの原因が「キアリ奇形」の可能性が高いことを突きとめたのでした ^ ^
今回は「首の後ろの痛み」から発症する「キアリ奇形」について紹介していきます。
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【目次】
キアリ奇形ってどんな病気なの?
「キアリ奇形」は1981年にオーストリアの病理学者 キアリさんが初めて報告しました。
小脳や脳幹(のうかん)の一部が、頭蓋骨の底に開いている穴(脊髄神経の通り道)に落ち込んでしまう病気で、落ち込みの程度で次のように大きく分類されます。
・キアリⅠ型奇形
:小脳扁桃(しょうのうへんとう)が落ち込む
・キアリⅡ型奇形
:小脳扁桃に加え、小脳虫部・第4脳室・延髄などが落ち込む
小脳扁桃の先端が、頭蓋骨の底の孔(「大孔」と言います)から5mm以上落ち込んでいれば「キアリⅠ型奇形」と診断することができます。
20〜40歳の成人女性に多く、初期症状は「後頭部の痛み」や「首の後ろの痛み」で、キアリ奇形の半数以上の患者さんで認められます。
この後頭部痛や首の後ろの痛みは、咳やくしゃみをした時や、活動性が増加する時にひどくなるという特徴があります。
首の後ろの痛みで受診した女性患者さんの話
それでは実際の患者さんの例をあげてみましょう。
患者さんは脳神経外科の外来を紹介受診された30歳代の女性です。
交通事故で入院していたのですが、原因不明の「首の後ろの痛み」が続いていました。
頭のCT検査や、首のレントゲン検査をしても異常がなく、痛み止めの薬を飲んでも全くよくなりませんでした。
そこで脳のMRI検査を行いました。
これは頭を真ん中で真っ二つに割ったMRI画像です。
注目すべきは後ろ頭の付け根で、首との境目あたりになります。
少し拡大してみましょう。
黄色の点線が「大孔(だいこう)」といって、脳から脊髄神経が背中の方へ伸びていく通り道になります。
その大孔から「小脳扁桃(しょうのうへんとう)」と呼ばれる部分が、約5mmほど落ち込んでいることがわかったのです。
患者さんに、首の後ろの痛みの原因は「キアリ奇形」の可能性があるという説明をしたところ、かなりショックを受けていました。
「奇形」という言葉を「生まれつきの障害」と思ってしまったようです。
ショックをなだめる目的で、「奇形」というのは「障害」ではなく「生まれ持った個性」なんだということを力説しましたが、あまりのショックで僕の話が全く耳に届いていませんでした・・・。
このキアリ奇形が原因となる「首の後ろの痛み」や「後頭部痛」ですが、実は「手術」で治すことができます。
「手術で治る可能性がある」ということをその患者さんに説明し、安心してもらおうと思ったのですが、「手術」と聞いて余計にパニック状態になってしまいました・・・。
(なんか悪いことしたかな僕?)
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キアリ奇形の治療
それではキアリ奇形の手術を紹介していきます。
キアリ奇形は「大孔」という頭蓋骨の底にある穴に、小脳の一部(小脳扁桃)が落ち込むことによって、首の後ろや後頭部の痛みを引き起こす病気です。
したがってこの「大孔」を拡げてあげれば、落ち込んで苦しんでいる小脳が楽になり、脳脊髄液の循環も改善して症状の緩和につながります。
この手術は「大孔部減圧術:foramen magnum decompression(FMD)」といって全身麻酔の手術になります。
写真は他のキアリ奇形患者さんです。
後頭部から首の後ろにかけて、ちょうど真ん中のところを切開します。
アキラッチョが脳神経外科医として未熟だった頃の手術なので、患者さんの髪の毛を結構切っていますが、今なら絶対に無剃毛手術(髪の毛を切らずにする手術)をします。(言い訳です・・・)
後頭部や首の後ろの筋肉をどんどん展開して拡げていくと、頭蓋骨と首の骨(頚椎)が現れます。
キアリ奇形の患者さんは、小脳が収まっている頭蓋骨の容積が狭いので、この後頭部の頭蓋骨(後頭骨)と、一番頭側にある首の骨の(第一頚椎)をドリルで削ってしまいます。
全て削り終わったのが上の写真になります。
小脳が入っている硬膜が”お尻”のように見えますね ^ ^
その硬膜を切って、少し足の方向のも切り広げます。
そしてその切って開いた部分に、ゴアテックス®︎でできた人工硬膜を当てて縫い付けます。
こうすることで、ギューギューに締め付けられていた小脳が楽になります。
それに伴って脳脊髄液の循環も改善し、首の後ろの痛みや頭痛が軽減することになります。
ちなみに頭蓋骨を削ってしまったので、硬膜がむき出しのままで筋肉と皮膚を閉じますが、この後頭部から首の後ろにかけての筋肉は結構分厚いので、このままキズを閉じても全く問題になりません。
「手術前」と「手術後」のCTです。
後ろ頭を下の方からのぞき上げた画像ですが、黄色の点線で囲まれた部分が頭蓋骨と頚椎を削った部分です。
「こんなに頭蓋骨がなくても大丈夫なんですか?」って患者さんによく聞かれますが「安心してください!大丈夫です!」っていつも答えてます。
こちらは手術前後のMRIの比較した画像ですが、黄色の点線で囲まれた小脳は、手術前と比べてかなりゆとりができていることがわかります。
この患者さんも若い女性でしたが、術後から首の後ろの痛みが全くなくなったので、すごく感謝してくれました。
退院後には早速仕事に復帰されて、その後も特に問題なく生活されています ^ ^
まとめ
「首の後ろの痛み」や「後頭部の痛み」で発症するキアリ奇形について解説してきました。
先天性の病気ですが、大人になってから発症することが多い不思議な病気です。
治療は大孔部減圧術(FMD)といって、後頭骨と第一頚椎を削ることで、大孔に落ち込んで苦しんでいる小脳を楽にしてあげる手術になります。
「手術!」って言われると恐いイメージがあるかもしれませんが、それほど難しい手術ではなく治療効果も期待できます。
キアリ奇形は珍しい病気なので、脳神経外科の先生じゃなければ見つけることができない場合が多いです。
原因不明の「首の後ろの痛み」や「後頭部の痛み」がある方は、脳神経外科を受診してMRI検査をした方がよいでしょう ^ ^
それではまた!