くも膜下出血

頭を強打!頭部外傷と思っていたら…実は”くも膜下出血”だった!

頭部外傷

 

救急医療の現場では、様々な病気やケガの診療にあたります。

特に夜間救急の場合は、昼間の業務で疲れ切っている一人の医師が、夜通しすべての救急患者さんに対応しなければならないこともあり、見落としや誤診などがないように細心の注意を払う必要があります。

 

今回は、頭部外傷(頭のケガ)ということで救急搬送された患者さんが、実は”くも膜下出血”を起こしていたという実話を紹介します。

「病院で働いているわけじゃないから、自分には関係ないよ」って思われたあなた!

ギリギリの救急医療の現場で、致命的な間違いが起こらないようにするために、患者さん側にも気をつけなければならない点があるので、ぜひ一読してみてください ^ ^

 

スポンサーリンク

 

【目次】

”頭部外傷”として救急搬送されてきた患者さん

ある日の早朝(午前5時頃)の話です。

救急当直をしている整形外科の先生から、救急搬送されてきた患者さんのことで相談の電話がかかってきました。

患者さんは53歳の女性で、名前を仮に”Bさん”とします。

 

Bさんは生来健康で、病気一つしたことがない元気な方でした。

朝、自宅の玄関先で足を滑らせて転倒し、後頭部を強打したということで救急車を要請したようです。

救急車で搬送されてきた時のBさんの様子を以下に紹介します。

 

・意識がはっきりしていて会話もできる

・手足の動きは問題ない

・後頭部の痛みあり(後頭部を強打したため?)

嘔吐を一回した(脳震盪?)

・転倒時の記憶がない(脳震盪?)

 

一見しただけでは、玄関先で足を滑らせて後頭部を強打しただけの患者さんのように思えます。

相談の内容は、意識もはっきりしていて手足の動きも問題ないので、Bさんを帰宅させてもよいかを脳神経外科医のアキラッチョに判断してほしいということでした。

救急当直をしていた整形外科の先生は、不眠不休で夜間の救急当直をし、またその日も朝から手術の予定が入っていたので、Bさんを早く帰宅させて自分の仕事を始めたかったようです。

(とにかく医師の仕事は休む暇がありません!)

 

Bさんの情報の中で、気になる点が2つありました。

それは「嘔吐した」という点と「転倒時の記憶がない」という2点です。

頭を強打して脳震盪を起こした場合、嘔吐したり記憶がなくなったりすることはあります

単なる脳震盪であれば、自宅に帰って安静にするしかないので、整形外科の先生もそのように考えたようです。

僕は念のため、その整形外科の先生に尋ねてみました。

 

アキラッチョ:

「たぶん帰宅しても大丈夫とは思いますが、頭のCT検査はしましたか?」

 

整形外科の先生:

「意識もはっきりしているので、特に検査はしてないです。ただ頭を打っただけみたいなので、大丈夫かな〜と思って。」

 

えっ!? CT検査してないの!?

嘔吐して記憶もなくなっているのに、頭の検査を何もしていない!?

・・・・。

実はこんな状況よくあるのです。

 

「頭痛」「めまい」「頭部外傷」などで、頭の検査をしないお医者さんって結構いるんですよね。

CT検査なんてやっても無駄だし、医療費がかかるだけで意味がないって言われることもあります。

もちろん、ほとんどの場合で異常は見つからないのですが、検査をしないことでとんでもない見落としをしてしまいそうになっている患者さんを、僕は今までに何人も見てきました。

 

僕はその整形外科の先生に、頭部CT検査を必ずしてもらうように依頼しました。

そして10分後に、その整形外科の先生が慌てて電話をかけ直してきたのです・・・。

 

頭部外傷

 

念のためのCT検査で”くも膜下出血”が!!

脳のCT検査を行って、2つの異常が見つかりました。

まず一つ目は「頭蓋骨骨折」です。

 

頭蓋骨骨折

 

これはBさんの頭蓋骨を真上からみた立体的なCT画像です。

頭蓋骨同士がくっついている縫合線と呼ばれる部分が、頭を強打したことによって離開(りかい)しているのです。

 

そしてもう一つの異常は「くも膜下出血」でした。

 

くも膜下出血

 

これはBさんの脳の輪切りのCT画像ですが、ヒトデ型に白くなっている部分が「くも膜下出血」です。

このCT検査結果から、Bさんはまず「くも膜下出血」を起こしたショックで意識を失ったことが予想されます。

そして意識を失ったBさんは、そのまま後方に倒れてしまって後頭部を強打し、頭蓋骨骨折を起こしたのです。

 

頭を強打することによって「外傷性くも膜下出血」というタイプの頭蓋内出血を起こす患者さんもいますが、その場合は出血がもっとうすく、ここまでのひどい出血になることはありません。

脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を疑い、造影剤を使って脳の血管を調べてみました。

 

血豆状脳動脈瘤

 

すると右の内頚動脈に「血豆状動脈瘤」と呼ばれる脳動脈瘤が2ヶ所見つかったのです。

通常の脳動脈瘤は血管の分岐する部分にできるのですが、この血豆状動脈瘤は脳血管の壁にいきなりできて、しかもすごく破裂しやすくクリッピング術では安全に治療ができない脳動脈瘤なのです。

血豆状動脈瘤ができるような血管は、血管そのものの状態が悪いため、その血管の代わりになるような別のもので作り直さなければならないのです。

Bさんの場合は、血豆状動脈瘤が発生した右の内頚動脈の代わりに、腕の血管を採取してきて作り直す手術を行いました。

 

ハイフローバイパス

 

この手術は「ハイフローバイパス術」と呼ばれていますが、腕の血管を用いて”首の血管”から”脳の血管”までバイパスを作る手術になります。

血豆状動脈瘤ができてしまっている内頚動脈は、そのままにしておくと再破裂してしまうので、クリップで血管ごと遮断してしまいます

 

もしCT検査をせずに、単なる脳震盪としてBさんが帰宅していた場合、数時間以内に血豆状動脈瘤が再破裂を起こしていた可能性は高いです。

血豆状動脈瘤が再破裂を起こした場合は、死亡率は非常に高くなるので、まさに間一髪の救出劇となりました。

 

スポンサーリンク

 

頭部外傷の原因は?見落とすと危険なピットフォール

頭を強打することで頭部外傷を起こしますが、軽症から重症まで様々な種類の頭部外傷があります。

脳神経外科で診療する頭部外傷を挙げてみましょう。

 

脳震盪(のうしんとう)

頭蓋骨骨折

脳挫傷(のうざしょう)

外傷性くも膜下出血

急性硬膜下血腫

急性硬膜外血腫

 

重症の頭部外傷は命の危険も出てくるので、緊急手術になる場合も多いです。

転倒して頭部を打撲したことで頭部外傷を起こす患者さんから、交通事故や高所からの転落などの高エネルギー外傷で頭部外傷を起こす患者さんまで様々です。

頭部外傷の患者さんでは、頭のケガの方にばかり目がいってしまいますが、忘れてはならない重要なことが一つあります。

それは何が原因で、頭部外傷を起こしたのか?という点です。

 

飛んできたボールが頭にぶつかったとか、青信号を渡っていて急に車が突っ込んできたという場合は防ぎようがありません。

しかし今回のBさんのように、転倒して頭を強打したのは、くも膜下出血を起こして気を失ったのが原因であったという場合は少なからずあります。

気を失う原因となり得る病気をいくつか挙げてみましょう。

 

脳出血

脳梗塞

てんかん発作

不整脈など心臓の病気

低血糖(糖尿病の治療薬など)

 

これらの病気が原因で気を失い、そのせいで転倒して頭を強打したり、交通事故を起こしたりするケースは実際あります。

ただ単に頭のケガをしたというだけでなく「前触れもなく突然倒れた」とか「ケガをする前の言動や手足の動きがおかしかった」などの情報があれば、頭部外傷に隠れた重篤な病気に気がつくことができます。

頭のケガって派手に出血して動揺する人も多いのですが、冷静になってケガをした時の状況を正確に把握して伝えることが、頭部外傷に隠れた病気の見落としを防ぐことにつながるのです ^ ^

 

それではまた!

 

くも膜下出血、脳卒中、脳動脈瘤

 

-くも膜下出血
-, ,

PAGE TOP