普通に生活をしている人にも、ある日突然襲いかかってくる脳の血管障害が「脳卒中」です。
この脳卒中の中で、最も重症な病気が「くも膜下出血(SAH)」になります。
くも膜下出血は、手足の麻痺など重度の障害が残ってしまう割合が45.8%、亡くなってしまう人の割合が23.4%にもなる恐い病気です。
今回は、最も危険な脳卒中の一つ「くも膜下出血」について詳しく解説していきます。
スポンサーリンク
【目次】
くも膜下出血の3つの原因
脳は外側から順に「硬膜(こうまく)」「くも膜」「軟膜(なんまく)」という3つの膜によって保護されています。
くも膜下出血はその名前の通り、二層目の「くも膜」の下に出血を起こす病気です。
このくも膜下出血を起こす原因は次の3つのものがあります。
・脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)
・脳動静脈奇形(のうどうじょうみゃくきけい)
・外傷性くも膜下出血
それぞれの原因について、解説していきましょう。
脳動脈瘤
まずくも膜下出血の原因で最も多いのが「脳動脈瘤」です。
脳動脈瘤とは、脳の血管の一部がコブのように膨らんでできる”血管の爆弾”みたいなものです。
特に血管が分岐して、血流がぶつかる部分にできやすくなります。
この脳動脈瘤が突然破れることによって、くも膜下出血を起こします。
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は、男性は50歳代が最も多く、女性は閉経後の60〜70歳代に多いことがわかっています。
全体では女性に多く、全体の7割を占めています。
破れる前にたまたま脳動脈瘤が見つかる方もいますが、やはり女性に多くなっています。
脳動静脈奇形(AVM)
脳血管の発生異常によって、正常構造でない血管の奇形を形成する病気が「脳動静脈奇形(AVM)」です。
脳動静脈奇形は非常に稀な病気で、一年間で100万人にわずか12.4人の発生頻度になります。
年間の出血率は2.2%であまり出血する確率は高くありませんが、脳動静脈奇形は出血を起こすと”くも膜下出血”だけでなく”脳内出血”も起こしてしまうので、重篤な後遺症が残る恐い病気です。
生まれつきの病気なので、比較的若い人に多くなります。
また脳動静脈奇形には、脳動脈瘤が合併することもあります。
※「脳動静脈奇形が破れて倒れた”若いお父さん”」の話はこちらの記事へ→
外傷性くも膜下出血
頭を強打するような激しい頭部外傷の時にも”くも膜下出血”を起こすことがあります。
この場合は「外傷性くも膜下出血」と呼んでいます。
出血の原因としては、くも膜の下にある細い血管が外傷で破綻することによって起こります。
外傷性くも膜下出血だけであれば出血の量も少ないため、特に手術で治療する必要はありません。
一番の問題となるのが、「外傷性くも膜下出血」の中にホンモノの「脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血」が隠れていることがあることです。
外傷性くも膜下出血と診断して、保存的治療を行なっていた患者さんが、突然再出血を起こして精査すると脳動脈瘤が見つかる場合があります。
この場合は大慌てで、脳動脈瘤の緊急手術になります。
「頭部を打撲してくも膜下出血を起こしたのか?」それとも「くも膜下出血を起こしたために倒れて頭部を打撲したのか?」という違いが非常に重要になります。
くも膜下出血の症状は?
くも膜下出血を起こした時は、どのような症状が出るのでしょうか?
「脳動脈瘤破裂」および「脳動静脈奇形破裂」が原因となるくも膜下出血の症状を、それぞれ解説します。
脳動脈瘤破裂の場合
脳動脈瘤が破裂して、くも膜下出血を起こす時の症状ですが「突然、バットで頭を殴られたような激しい頭痛」が特徴になります。
聞くだけでも、すごく恐い症状ですね・・・。
でも実際、患者さんは本当にそのように言われます。
バットで頭を殴られたことのある人は、おそらく(すでにこの世に)いないと思われますが、そんな激しい頭痛に突然襲われるのです。
頭痛と同時に「吐き気」を起こしたり、ひどい場合は「意識障害」を起こします。
このような頭痛を起こした場合は、早急に脳神経外科のある病院を受診する必要があります。
脳動静脈奇形破裂の場合
頻度は非常に少ないですが、脳動静脈奇形が破裂してくも膜下出血を起こす場合は、たいてい脳内出血を合併しています。
一番多い症状が「痙攣発作(けいれん発作)」です。
全身を硬直させて、手足がブルブルと震えます。
また脳動静脈奇形の場所によっては、出血によって「手足の麻痺」や「意識障害」など多様な症状を起こします。
スポンサーリンク
くも膜下出血の3つの治療法
くも膜下出血の原因のほとんどが「脳動脈瘤の破裂」によるものです。
この破裂した脳動脈瘤の治療法は3つあります。
それぞれの治療法を詳しく解説していきましょう。
クリッピング手術
「クリッピング手術」とは、全身麻酔の脳神経外科手術になります。
破裂した脳動脈瘤に到達できる部分の頭を開き、顕微鏡を使いながら目的の脳動脈瘤を露出させ、二度と破れないように脳動脈瘤の根元の部分を「クリップ」という道具で遮断してしまう治療になります。
破裂した脳動脈瘤の根治術として、今でもゴールドスタンダードな治療法になります。
コイル塞栓術
「コイル塞栓術」は、破裂した脳動脈瘤を”切らずに治す”ことができる治療法です。
患者さんの鼠径部の血管からカテーテルを入れて、脳動脈瘤ができている脳の血管まで進めていきます。
脳動脈瘤まで到達したら、瘤の中に「コイル」と呼ばれる細い針金のようなものをどんどん詰めていき、内側から脳動脈瘤を破れなくするのです。
全身麻酔で頭を開いで手術するわけではないので、体への負担も少なくすみ、高齢者や全身状態の悪い患者さんでも、コイル塞栓術によって治すことが可能となります。
保存的治療
くも膜下出血の中には「中脳周囲くも膜下出血」と呼ばれるものがあり、全体の約10%を占めています。
脳幹(のうかん)の周りにある静脈が破綻して起こると考えられていますが、経過良好な場合が多いため、”良性”のくも膜下出血になります。
中脳周囲くも膜下出血の場合は、手術などの治療は必要なく、血圧管理など「保存的治療」が中心になります。
ただし、くも膜下出血を起こした時にはっきりしなかった脳動脈瘤が、後から発見される場合もあるので、入院経過中に脳血管の検査を繰り返し行う必要があります。
くも膜下出血を予防するためには?
それではこのくも膜下出血を予防するためには、どんなことに気をつければよいのでしょうか?
くも膜下出血を起こす危険因子として、脳卒中治療ガイドラインに次のように記載されています。
くも膜下出血を来す危険因子としては喫煙習慣、高血圧保有、過度の飲酒があげられ、これらの危険因子を持ち合わせる人では、その改善を行うよう強く勧められる(グレードA)。
引用:脳卒中治療ガイドライン2015より
危険因子として、①タバコ、②高血圧、③過度の飲酒の3つが挙げられています。
この中でも特に③過度の飲酒が、くも膜下出血の最も危険な因子となっています。
その他にも次のような危険因子がわかっています。
・一親等以内の脳動脈瘤保有者の家族歴
・人種(日本人、フィンランド人)
・女性
また季節や気候によるくも膜下出血の危険性についても調べられていますが、夏より冬に多いという季節性はあるものの、気温や気圧などの気候との関連性はないことがわかっています。
いずれにしても、タバコや高血圧、お酒の飲み過ぎなどは自分でも気をつけることができます。
くも膜下出血を予防するためにも、この3つの危険因子には十分ご注意ください ^ ^
それではまた!