脳梗塞のバイパス手術!手術適応や合併症について解説

脳梗塞、バイパス手術

 

脳梗塞」は脳の血管が血栓でつまることで、手足が動かなくなったりする恐い病気です。

特に脳の血管や頚動脈が動脈硬化で狭くなっている場合は、脳梗塞を起こす危険性が高くなります。

通常は血液をサラサラにする抗血小板薬を飲むことで脳梗塞を予防しますが、中には抗血小板薬だけでは予防しきれないほど血管が狭くなっている患者さんもいます。

今回は抗血小板薬だけでは脳梗塞を予防しきれない患者さんを救うための外科治療「バイパス手術」について解説していきます。

 

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脳梗塞バイパス手術の手術適応は?

脳梗塞のバイパス手術ですが、全ての脳梗塞患者さんが受ける手術ではありません。

脳卒中治療ガイドラインでは次のように記載されています。

 

脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)再発予防の面から、症候性内頚動脈および中大脳動脈閉塞、狭窄症を対象とし、周術期合併症がない熟達した術者により施行される場合は、バイパス手術が勧められる(グレードB)。

引用:「脳卒中治療ガイドライン2015」より

 

簡単に説明すると脳梗塞一過性脳虚血発作を起こした患者さんの中で、脳の太い血管(中大脳動脈)や首の血管(頚動脈)が狭くなっている人は、手術の上手な脳外科の先生バイパス手術をしてもらった方がいいですよ!」ということになります。

ただし、この中でもさらにバイパス手術を受けることができる患者さんは次のように制限されています。

 

・脳梗塞や一過性脳虚血発作を起こしてから3ヶ月以内

73歳以下

・日常生活がほぼ自立

・起こした脳梗塞が小さい

・脳血流が正常値の80%以下に落ちている

・脳血管の反応性(予備能)が10%以下に低下

 

これらの条件を全て満たした患者さんだけが、脳梗塞のバイパス手術を受けることができるのです。

なぜここまで条件が厳しいのかというと、これらの条件を満たさない患者さんにバイパス手術をすると、非常に危険な手術合併症を起こすリスクがあるからなのです。

 

脳梗塞バイパス手術はこんな手術です

脳梗塞のバイパス手術を一言で説明するなら「頭の皮膚の血管を、脳の血管につなぐことで脳血流を増やす」という手術になります。

僕が手術した実際の患者さんに登場していただきます。

(もちろん、ご本人には許可をいただいています)

 

左手の一過性麻痺症状で救急搬送された年配女性の患者さんです。

右中大脳動脈が動脈硬化で強い狭窄があり、手術適応があるということでバイパス手術になりました。

ちょっと宣伝になりますが、僕の手術は「できるだけ手術をしたことがわからないように仕上げる!」というポリシーをもって望んでいます。

 

脳梗塞、バイパス手術

 

一見普通の年配女性ですが、髪の毛をめくってみると・・・

 

脳梗塞、バイパス手術

 

こんな感じです。

(風が吹いたら、手術してるってわかるじゃん!って思わないでください ^ ^)

 

頭の皮膚には「浅側頭動脈」(せんそくとうどうみゃく)と呼ばれる栄養血管があります。

この血管を剥き出して、脳の血管に吻合してしまうのです。

浅側頭動脈の頭頂枝(とうちょうし)を剥き出しながら、点線に沿って皮膚を切開します。

写真の真ん中に写っている血管が、浅側頭動脈の頭頂枝になります。

 

脳梗塞、バイパス手術

 

2本の浅側頭動脈を剥き出したら、頭蓋骨を切って外し、脳の表面を露出させます。

そして脳の表面の1mmにも満たない血管に、この剥き出してきた浅側頭動脈を吻合するのです。

 

脳梗塞、バイパス手術

 

ちなみに下のマス目は1mmです。

髪の毛よりも細い糸を使って、顕微鏡を覗きながら縫い合わせていきます。

 

脳梗塞、バイパス手術

 

吻合が無事終わったら、蛍光色素を注射してきちんとつながっているかどうかを確認します。

 

脳梗塞、バイパス手術

 

脳表の血管を一時的に遮断して吻合する手術なので、時間がかかりすぎると脳梗塞になってしまいます

ずっと以前、手術を教えてくれた僕の師匠は「遮断時間の目標は20分!」といつも言ってました。

20分を切るために、自分の顕微鏡で毎日トレーニングするのですが、この手術は23分かかってしまいました。

背後から師匠に「なにやってんだ!3分オーバーしたぞ。罰金だ、罰金3,000円!」って言われた気がします(汗)

 

この患者さんですが、術後に脳の血流も十分増加し、特に手術合併症なく笑顔で歩いて退院されました。

 

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脳梗塞バイパス手術の恐い合併症4つ

ところでこのバイパス手術ですが、いくら熟達した脳神経外科の先生が手術をしても、手術による合併症が起こる確率は約2%と言われています。

脳梗塞のバイパス手術で起こる可能性のある、主な4つの合併症についてそれぞれ紹介していきます。

 

脳梗塞

まずは合併症の代表格である「脳梗塞」です。

脳梗塞を予防するためのバイパス手術なのに、血管を遮断している時間が長すぎたり、手術操作で血栓を作ってしまうことで、脳梗塞を悪化させてしまう可能性があります。

脳梗塞の悪化に伴って、手足の麻痺や言語障害などの症状が悪くなってしまうことがあります。

また、せっかく吻合した血管に血栓ができてしまい、術後すぐつまってしまうこともあるのです。

脳血管の遮断する時間をいかに短くして、しかも完璧な吻合手術を行うということは、僕たち脳神経外科医に課せられた課題です

 

過灌流症候群

次は過灌流症候群(かかんりゅう症候群)という合併症で、これはきちんとバイパス血管が吻合できた時に起こる恐い合併症です。

バイパスされた血管からの血流が多すぎて、脳がびっくりして色々な障害を起こしてしまうのです。

過灌流症候群で起こる症状を3つ挙げてみます。

 

頭痛

痙攣(けいれん)

脳出血

 

この中でもやはり「脳出血」が最も心配されます。

バイパス手術後に過灌流症候群を起こしてしまった場合は、この脳出血を予防するためにできるだけ血圧を下げて術後管理を行います

血圧コントロールが難しくて痙攣がおさまらないような場合は、脳出血を予防するために人工呼吸器を装着し、薬で完全に眠らせて全身管理を行う場合もあります

 

例えばの話です。

何日も空腹状態が続いた後で、急に高級レストランで大量のディナーをここぞとばかりに食べるという状況を想像してみてください。

そんなぜいたくなことをしたら絶対にお腹を壊しますよね?

脳も一緒で、急にぜいたくな血流が入ってしまうと壊れてしまうのです。

ちなみに過灌流症候群は、別名「ぜいたく灌流症候群」とも呼ばれています。

 

慢性硬膜下血腫

3つ目は「慢性硬膜下血腫」(まんせいこうまくかけっしゅ)です。

バイパス手術をした時には、多かれ少なかれ脳の水(脳脊髄液)が抜けてしまいます。

この脳の水が抜けすぎると、脳がどんどん縮んでしまうので、脳を覆っている硬膜の下にすき間が拡がってきます。

このすき間に水のような血液がゆっくりとたまる病気が慢性硬膜下血腫になります。

 

特に脳の萎縮がもともと強い高齢者の方のバイパス手術で起こることがあります。

慢性硬膜下血腫は自然に治ることもありますが、血腫がどんどん大きくなってくるような場合は、この血腫を抜く手術が必要になります。

 

皮膚のトラブル

最後は「皮膚のトラブル」です。

バイパス手術では「浅側頭動脈」(せんそくとうどうみゃく)という頭皮の血管を剥き出して、それを脳の血管につなぐ手術になるので、頭皮の血流が相対的に不足してしまいます。

頭皮の血流が足りなくなると、皮膚切開をした部分の皮膚癒合がうまく行かなくなってしまうことがあります。

頭皮の血流不足で手術をしたところがくっつかずに開いてしまったり、そこから細菌が入って感染してしまうのです。

 

この皮膚のトラブルは、タバコを吸っている人糖尿病の患者さんに起こりやすいことがわかっています。

せっかく手術がうまくいったのに、術後に隠れてタバコを吸ってしまい、手術をした傷がどんどん悪くなって頭の皮膚が完全に壊死した患者さんも過去いらっしゃいます。

 

登山は無事に下山するまでが登山という名言がありますが、手術も無事に退院するまでが手術ということを痛感します。

 

上高地、登山、テント

 

まとめ

今回は脳梗塞再発予防の治療「バイパス手術」のお話をしました。

脳神経外科医としては必須の手術なのですが、実際は術者によってかなり技量の差が出てしまいます

もしバイパス手術を受けるようなことになったら、患者さん側としては確認しておきたいことが2点あります。

 

・どの先生が手術をしてくれるのか?

・その先生の年間手術件数手術成績は?

 

このバイパス手術ですが、手術件数が非常に多い施設でも、一人の術者が行う件数としては年間数件レベルです。

たくさんの手術件数をこなしてきたベテランの先生でも、実際の手術は今ひとつということも時々あります。

その反対で、少ない手術件数でもきちんとした手術ができて、日々自己研鑽している若い先生もたくさんいます。

 

バイパス手術を含めて脳神経外科の手術は大変な局面の連続なので、いざという時には人間力が試されるのです。

手術前には術者の先生とよく話をして、自分(または身内の方)の手術を任せるに値する先生かどうか、よーく見極める必要があります ^ ^

 

それではまた!

 

脳出血、脳梗塞、バイパス手術