高血圧などの生活習慣病が原因となって起こる「脳出血」ですが、出血する脳の部位は様々です。
今回は脳出血の中では比較的頻度は少ないですが、非常に重篤な症状を起こすことのある「小脳出血」について、診断・検査・治療法など詳しく解説していきます。
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【目次】
小脳出血とは?
「小脳(しょうのう)」とは、運動機能の調節などを行なっている小さな脳で、後頭部の下で大脳に隠れるようにして存在しています。
大脳や脊髄などの神経系から情報を受けて、身体のさまざまな運動機能を調整しており、小脳が正常にはたらいてくれるおかげで、細かい動作やなめらか話すことが可能になります。
この小脳に出血を起こす病気が「小脳出血」で、脳出血の約10%を占めています。
小脳出血の原因は以下のものが挙げられます。
・高血圧
・脳腫瘍(のうしゅよう)
・脳動静脈奇形(のうどうじょうみゃくきけい)
この中でも最も多い原因は「高血圧」になります。
持病として高血圧を持っていない人や、若い人が小脳出血を起こした時は、脳腫瘍や脳動静脈奇形なども原因として考えなければなりません。
小脳出血で起こる4つの症状
小脳は、あくまでも運動機能の調整を行なっている脳なので、小脳出血を起こしても手足の麻痺症状が出ないという特徴があります。
それでは小脳出血を起こした時の特徴的な症状を4つ紹介していきます。
頭痛・嘔吐
小脳出血を起こした時に、最初に出現する症状が「頭痛」と「嘔吐」です。
小脳が収まっている場所は「後頭蓋窩(こうずがいか)」と呼ばれていて、非常に狭いスペースになります。
その中で出血を起こした小脳が腫れてくると、ひどい頭痛と嘔吐を起こすことになります。
他の脳出血と同様、突然の頭痛や吐き気を起こした時は、すぐに病院を受診して検査をする必要があります。
運動失調
小脳出血では手足が動かなくなるといった麻痺症状は出現しません。
小脳は運動機能を調整するはたらきを持っているので、出血によって障害されると、うまく運動することができなくなります。
具体的には次に挙げる症状になります。
・細かい運動ができない
・歩行時にふらつく
・めまいがする
・ろれつが回らない
手足の麻痺がないのにこれらの症状がある場合は、小脳出血などの病気を考えなければなりません。
共同偏視(きょうどうへんし)
共同偏視とは、両方の眼球が一定の方向にそろって向いてしまう状態のことを言います。
小脳出血の時は、出血を起こした小脳の反対側へ向かう共同偏視を起こします。
ちなみに被殻(ひかく)出血の時は、出血を起こした方へ共同偏視を起こします。
視床(ししょう)出血では、鼻先をにらむような共同偏視を起こすという特徴があります。
意識障害
小脳出血の大きさが3cmくらいになってくると、徐々に意識が悪くなってきます。
出血を起こした周囲の小脳が腫れてくると、血液の循環が悪くなって更に腫れがひどくなっていきます。
出血が小さいからといって油断していると、あっという間に意識障害を起こして、最悪の場合は呼吸が止まってしまうこともあるので注意が必要です。
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小脳出血の治療法
小脳出血の治療も、他の脳出血の治療と同様に「内科的治療」と「外科的治療」があります。
どのような場合に外科的治療を選択するのかというと、小脳出血の大きさや意識の状態などで判断することになります。
それでは、それぞれの治療法について解説を進めていきます。
内科的治療
まず内科的治療ですが、小脳出血の一番の原因が「高血圧」なので、血圧を下げる薬を持続で注射して血圧コントロールを行います。
この時の目標とする血圧ですが、上の血圧で140mmHg未満となります。
血圧コントロールが悪ければ、再出血によって状態がさらに悪くなってしまいます。
また小脳のすぐ近くには「脳幹(のうかん)」と呼ばれる非常に大切な部分があります。
脳幹の機能を簡単に説明すると次のようになります。
・意識を保つ
・呼吸の命令を出す
・生命活動を維持する
要するに脳幹がダメージを受けると、生きていけない(=死んでしまう)ということになります。
小脳出血を起こした時は、出血のまわりの小脳がどんどん腫れてきて、この大切な脳幹を圧迫し始めます。
脳幹がこの圧迫によって壊されてしまわないように、腫れを軽減する薬(グリセオール)の点滴治療も重要になってきます。
外科的治療
それではどのような場合に外科的治療を選択するのでしょうか?
小脳のすぐ近くには、脳の中でも最も大切な脳幹があります。
したがって手術に踏み切る判断を間違えると、患者さんの意識が戻らずに植物状態になってしまうだけでなく、最悪の場合は呼吸が止まって死亡してしまいます。
手術に踏み切る時の判断は、脳卒中治療ガイドラインでは以下のように書かれています。
最大径が3cm以上の小脳出血で神経学的症候が増悪している場合、または小脳出血が脳幹を圧迫し脳室閉塞による水頭症を来している場合には、手術を考慮する(グレードC1)。
引用:「脳卒中治療ガイドライン2015」より
最大径が3cmの出血であれば、出血の量としては約14mlくらいです。
他の部位の出血であれば約30ml以上で手術適応になりますが、小脳自体すごく狭い入れ物の中に入っていて、しかもすぐ隣に脳幹という非常に大切なものがあるので、手術に踏み切るタイミングは他の脳出血よりも早めになります。
手術室の準備ができるまで待てないこともあり、呼吸が止まりそうになれば迷わず人工呼吸器を装着する必要があるのです。
小脳出血はどこまで回復するの?後遺症は?
それでは小脳出血を起こした患者さんはどれくらい回復するのでしょうか?
出血が3cm未満で、内科的治療のみでよくなった患者さんは、麻痺症状などの目立った後遺症は残らず、リハビリによってほぼ元どおりの日常生活を送ることができるようになります。
しかし最初の出血量が多く、手術が必要になるような患者さんについては、手術がうまくいっても意識が戻らず、寝たきりになってしまう人も多いです。
少なくとも救命するためには、一秒でも早く小脳出血による脳幹への圧迫を手術で解除してあげなければなりません。
この小脳出血は、僕たち脳神経外科医がめちゃくちゃ猛スピードで頑張らなければいけない手術のうちの一つなのです。
小脳出血の原因は高血圧が最も多いので、普段の家庭血圧には十分ご注意ください。
それではまた!