食生活を中心とした生活習慣の欧米化や高齢化に伴い、高血圧や糖尿病、そして高コレステロール血症が原因となって動脈硬化になる人が増えてきています。
動脈硬化が脳や心臓などの血管に起こると「脳梗塞」や「心筋梗塞」の原因になります。
動脈硬化の中でも特に首の血管(頚動脈)にできる動脈硬化性変化「プラーク」というものが、脳梗塞の原因として非常に注目されています。
今回は頚動脈プラークの検査法や治療法についてのお話です。
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【目次】
脳梗塞の原因!頚動脈プラークって何?
脳梗塞の原因として注目されている「頚動脈プラーク」ですが、頚動脈の内側に突出するようにできる病変のことを言います。
頚動脈プラークができると血管の内腔が狭くなるため「頚動脈狭窄」と呼ばれることもあります。
この頚動脈プラークができる原因は以下の5つのものがあります。
・高血圧
・脂質異常症(高コレステロール血症、高脂血症のこと)
・糖尿病
・タバコ
・加齢性の変化
このプラークがどんどん大きくなると、それに伴って頚動脈が狭くなってくるので、脳への血流が低下してしまいます。
そればかりでなくこのプラークは破れて血栓を飛ばしたり、剥がれて脳へ飛んでいくことがあるので、脳梗塞の原因として必ず調べておかなければならないものになります。
頚動脈プラークを調べる4つの検査
脳梗塞の原因になる頚動脈プラークですが、これを調べるための方法は「頚動脈エコー」「MRI・MRA」「造影CT」「脳血管カテーテル」の4つの検査があります。
それぞれの検査の特徴について解説していきましょう。
頚動脈エコー
まず「頚動脈エコー」検査ですが、3つの中で最もオススメの検査になります。
首にエコーを当てるだけなので「簡単」で「迅速」に検査をすることができます。
しかも頚動脈プラークの「不安定性」まで調べることができます。
不安定な頚動脈プラークとは、プラークが破れて血栓を飛ばしやすい状態のことを言います。
そして不安定プラークと診断されれば予防的治療を開始することができ、未然に脳梗塞を防ぐことができます。
脳梗塞のリスクが高いと考えられている不安定プラークの特徴は次のものになります。
・低輝度プラーク・・・エコーで「黒色」に見えるもの
・可動性プラーク・・・プラプラと動いているもの
・潰瘍(かいよう)・・・プラークに穴があいているもの
・急にサイズが大きくなったり、形が変化するプラーク
また頚動脈の狭さ(狭窄率)も計算することができるので、脳梗塞予防治療を行う上では必須の検査になります。
MRI・MRA
MRI・MRA検査でも頚動脈プラークを調べることができます。
まずMRA検査で、”大まかに” 頚動脈が狭くなっているかどうかを調べます。
もし狭くなっているようであれば、MRプラークイメージングという方法で、頚動脈プラークのある部分を細かく調べることができます。
プラークの不安定性を知ることができるのですが、調べることができる範囲が限られており、また非常に小さなプラークを調べるには限界があるというデメリットがあります。
頚動脈プラーク自体を調べるのであれば、頚動脈エコー検査の方が優れていますが、プラークのある血管の先にどれだけの脳梗塞を起こしているかをMRIで調べることができるので、やはり必須の検査となっています。
造影CT
造影剤を使ったCT検査で、頚動脈の血管狭窄を調べることができます。
この造影CT検査では、プラークの性状自体を調べることはできないのですが、次に挙げるメリットがあります。
・石灰化病変がわかる
・プラークのある頚動脈の位置(高さ)がわかる
石灰化病変があると頚動脈自体が非常に硬くなるので、あとで説明するカテーテル治療を行うことができなくなります。
またプラークのある頚動脈の位置が、顎の骨に隠れるようなところにあると、手術をすることがとても難しくなります。
造影CT検査では造影剤を注射したり、放射線に被曝するというデメリットがありますが、治療方針を決定するためには必要な検査の一つになります。
脳血管カテーテル検査
最後は「脳血管カテーテル検査」になりますが、腕や脚の付け根の血管からカテーテルを進入させて、頚動脈や脳の血管を造影して調べる検査になります。
この脳血管カテーテル検査ですが、プラークの性状は全くわかりません。
しかも局所麻酔をして血管の中にカテーテルを入れたり、放射線に被曝してしまうので、4つの検査の中では最も侵襲を伴う検査になります。
なぜこの検査をする必要があるのかというと、「ダイナミックな血液の流れ」を調べることができるからなのです。
プラークで狭くなった頚動脈の先にどれくらいの血液が流れているのか?
反対側や後ろの血管からどれくらい”お助け”の血流が供給されているのか?
そして、プラークのある頚動脈がもしつまってしまった時には、”お助け”の血流で脳梗塞を予防できるかどうか?
これらの「ダイナミックな情報」を調べることができるので、頚動脈プラークの治療を行うためには重要な検査になるのです。
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頚動脈プラークの3つの治療方法
頚動脈プラークを見つけた時によく患者さんに次のように聞かれます。
「先生、このプラークってのは自然に治らんのかなあ?」
残念ながら、頚動脈プラークが自然に治ることはありません。
頚動脈プラークがなくなる時は剥がれて飛んで行ってしまった時なので、脳梗塞を起こしてしまうことになります(汗)
それでは脳梗塞を予防するために、頚動脈プラークの治療法を3つ紹介していきましょう。
内科的治療
まず一つ目は「内科的治療」ですが、薬の治療を行うことで頚動脈プラークが原因となる脳梗塞を予防します。
具体的には「抗血小板薬」(こうけっしょうばんやく)という”血液をサラサラにする薬”を飲むことになります。
脳梗塞の予防目的に使われる主な抗血小板薬は、次の3つの薬になります。
・バイアスピリン®︎(一般名:アスピリン)
・プラビックス®︎(一般名:クロピドグレル)
・プレタール®︎(一般名:シロスタゾール)
抗血小板薬は通常1種類だけで治療を行うのですが、頚動脈プラークが大きい患者さんや、脳梗塞の再発を繰り返している患者さんは強力に予防する必要があるので、抗血小板薬を2種類の組み合わせで飲んでもらう場合もあります。
またプラークが大きくならないように、コレステロールを下げる薬や、 イワシの油で有名なEPA製剤なども一緒に内服して治療を行います。
しかし内科的治療は、あくまでも悪化を予防するのが目的になります。
頚動脈の大きなプラークが、これらの薬を飲むことで自然に小さくなることはありません。
(0.数ミリほどプラークが退縮したとかいうデータはありますが・・・)
頚動脈内膜剥離術(CEA)
頚動脈プラークを外科手術で摘出する治療が「頚動脈内膜剥離術」(けいどうみゃく ないまく はくり術)です。
僕たち脳神経外科医は”CEA”と呼んでいる基本的な手術になります。
首のところを数センチ切って頚動脈を剥き出しにして、その頚動脈を一時的に遮断している間に血管壁を切り開き、中からプラークをごっそりと摘出するという手術です。
血管が屈曲していたり、石灰化が強いような患者さんは、この後で紹介する「カテーテル手術」が難しいため、このCEA手術を選択します。
頚動脈ステント留置術(CAS)
”切らずに頚動脈プラークを治す”治療が「頚動脈ステント留置術」です。
通称”CAS”(キャス)と呼んでいて、脚の付け根(鼠径部)からカテーテルを入れて、血管の中から治療を行う「血管内手術」の一つになります。
プラークで狭くなっている頚動脈のところに、血管の内側から「ステント」と呼ばれるメッシュ状の金属を留置して、内側から拡げるといった治療になります。
ステントを拡げた時に、プラークから血栓が飛んでいかないように工夫がなされており、初期の頃の治療に比べるとすごく安全な治療になってきています。
しかしこの頚動脈ステント留置術ですが、せっかく治療したのにまたプラークが成長してきて、もう一度ステントを内側に留置することになる場合もあります。
僕個人的には、先ほど紹介した「頚動脈内膜剥離術(CEA)」の方が優れた治療だと思っています。
(でもCEAは首のところを切らないといけないので、もし手術される側になったら・・・悩みます)
頚動脈プラークがあるって言われたらどうすればいいの?
MRIや頚動脈エコー検査をして「頚動脈にプラークがありますよ」とお医者さんに言われても、すぐ脳梗塞になってしまうわけではありません。
生活習慣の乱れている方やある程度の高齢者になると、頚動脈にプラークができてしまうのは仕方ありません。
小さなプラークであれば、生活習慣の改善に努めて頂くだけでも大丈夫なのですが、プラークのサイズが大きくて頚動脈に狭窄をきたしているような場合や、エコーで黒く見える「不安定プラーク」の場合は、何らかの治療を考えなければなりません。
そのプラークが原因で「脳梗塞」を起こしたり、脳梗塞の前兆である「一過性脳虚血発作」を起こしているような場合は、薬による治療に加えて頚動脈内膜剥離術(CEA)や頚動脈ステント留置術(CAS)を考える必要があります。
暴飲・暴食をされる人、タバコを吸っている人、血圧の高い人、健康診断を全く受けていない人、などなど健康面が心配の人は「頚動脈プラーク」を必ず調べた方がよいでしょう。
頚動脈プラークという病気は、決して他人事ではありませんよ〜!
それではまた!