ある日突然、バットで頭を殴られたような激しい頭痛で発症する「くも膜下出血」は、命を脅かすような危険な脳卒中の一つです。
くも膜下出血を起こした人の中には、出血した時のショックで突然死する人もいます。
救急搬送されてきたくも膜下出血の患者さんは、手術やカテーテル治療を行いますが、救急搬送されてきた時に行う初期治療が、患者さんを救うことができるかどうかの鍵になります。
初期治療がうまくいかなければ、脳動脈瘤が再破裂を起こしてしまい、病院に搬送されたにも関わらず、状態が更に悪くなってしまいます。
今回は、くも膜下出血の患者さんを救うために、救急外来(ER)で行われている初期治療や検査について詳しく解説していきます。
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【目次】
くも膜下出血が疑われる”キーワード”
くも膜下出血を起こした患者さんは、ほとんどの場合、救急車で搬送されてきます。
救急隊からの第一報には共通のキーワードがあります。
それは「突然の頭痛」です。
くも膜下出血の患者さんの中には、最初の出血が軽かったため、普通に歩いて脳神経外科の外来を受診する方もいらっしゃいますが、問診すると次のように言われます。
「今まで経験したことがないような頭痛が、”突然”起こりました」
この「突然の頭痛」や「今まで経験したことのないような頭痛」を起こした患者さんが来院する場合は、「くも膜下出血」であることを前提で、検査や治療の準備を進めます。
くも膜下出血は脳動脈瘤の破裂によって起こりますが、この脳動脈瘤が再破裂してしまうと、患者さんの状態が非常に悪くなってしまいます。
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は診断の遅れが転帰の悪化につながるため、迅速で的確な診断と専門医による治療を行うよう強く勧められる(グレードA)。
引用:「脳卒中治療ガイドライン2015」より
脳動脈瘤の再破裂を予防し、根治術につなげるためにも、できるだけ早急に「初期治療」を開始し、「治療体制の準備」を大至急で行うことが必要になるのです。
くも膜下出血の初期治療
くも膜下出血の患者さんが救急搬送されてきたら、まずは「血圧」や「脈拍」などのバイタルサインの確認を行います。
またそれと同時に患者さんの「意識のレベル」や「神経症状のチェック」も行い、患者さんの全身状態の把握に努めます。
その間、血液検査をしたり、点滴のルートを確保したり、看護婦さんと協力しながら検査の準備を整えます。
患者さんが会話をすることが可能であれば、頭痛を起こした時の状況をお聞きしますが、意識の悪い患者さんであれば、付き添いの人に倒れた時の状況を聴き出します。
これらの一連の作業が終わり、くも膜下出血で間違いないだろうと確信できれば「初期治療」をすぐに開始します。
くも膜下出血の初期治療は次のようになります。
再出血予防のためには、十分な鎮痛、鎮静、降圧することを考慮しても良い(グレードC1)。
引用:「脳卒中治療ガイドライン2015」より
統計学的にきちんと証明できていないため、若干ひかえめな表現になっています。
しかし、くも膜下出血の初期治療において「鎮痛(ちんつう)」「鎮静(ちんせい)」「降圧(こうあつ)」は絶対的な三本柱になります。
くも膜下出血を起こした時はひどい頭痛を起こしますが、この頭痛の影響で急激に血圧が上がると、脳動脈瘤が再破裂してしまう可能性が高くなります。
また出血によって脳がすごく腫れるため、自分で自分がわからなくなってしまい、錯乱状態で暴れる患者さんもいます。
こうなってしまうとやはり血圧は上昇し、脳動脈瘤の再破裂につながってしまいます。
再破裂予防のために降圧(血圧を下げること)するのは言うまでもありません。
この「鎮痛」「鎮静」「降圧」の初期治療を、迅速かつ的確に行うことが、くも膜下出血の患者さんの「機能予後」や「生命予後」を大きく左右することになるのです。
また脳の腫れを改善する薬を投与したり、嘔吐するような患者さんに対しては、吐き気止めの薬なども投与します。
ちなみに、目の前で人が急に倒れた時に、無理やり体を起こしてみたり、意識を戻そうとして強くゆさぶったりすることは(くも膜下出血で倒れた可能性もゼロではないので)非常に危険です。
呼びかけてみて反応がなければそっとしておいて、すぐに救急要請(119番)をしましょう。
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くも膜下出血の検査・診断
くも膜下出血の「検査」は、初期治療を終えてから行うことになります。
実は他の病気の時と、順番が大きく異なっています。
・くも膜下出血の場合
「初期治療」→「検査」→「診断」
・他の病気の場合
「検査」→「診断」→「初期治療」
くも膜下出血の場合は、まだ診断がきちんとついていない段階で、初期治療を”見切り発車”で開始しすることになります。
正確に診断できていなくても、状況から「くも膜下出血であろう」と予測できるのであれば、これでもか!というくらい初期治療をガンガンに行います。
たとえ患者さんに”会話ができるくらいの意識”があっても、薬ですぐに鎮静してグッスリ眠ってもらってから検査を行います。
検査をしてみて「くも膜下出血ではなかった」という可能性もありますが、初期治療をせずに脳動脈瘤を再破裂させてしまっては元も子もないので、くも膜下出血の時だけは「初期治療」優先になります。
くも膜下出血の検査ですが、迅速かつ出血病変をすぐに診断することができる「CT検査」になります。
CT検査で「くも膜下出血」と診断されれば、そのまま「造影CT検査」を行います。
造影剤を注射しながらCT検査をすることで、脳の血管や脳動脈瘤の部位・大きさなどを確認することができます。
くも膜下出血の中にはCT検査でわからないような”薄い”出血の場合があります。
救急の先生や、内科の先生が見落とした「くも膜下出血」を過去何度も脳神経外科で見つけたことがあります。
CT検査で出血がはっきりしないけれど、「突然の頭痛」や「今まで経験したことがないような頭痛」の患者さんで、くも膜下出血を強く疑う場合には次の検査を行います。
・MRI検査(特にFLAIRという撮影方法)
・髄液検査(腰から針を刺して、脳の水を調べる検査)
このいずれかの検査を行うことによって、くも膜下出血と最終的に確定診断される場合もあります。
初期治療を終えて・・・
ERでの初期治療を終えて、いよいよくも膜下出血の本格的な治療が始まります。
その日が休日であれ、時間が深夜であれ、くも膜下出血の患者さんを助けるためには、できるだけ早く「脳の環境」を改善した方がよいので、そのまま緊急手術になる場合が多いです。
手術にかかる時間は少なくても2〜3時間はかかります。
破裂した脳動脈瘤の場所や大きさによっては、手術に10時間近くかかる場合もあります。
手術中に動脈瘤が破れたりすることもありますが、その際には緊急で輸血が必要になる場合もあります。
予定されていた手術時間を大幅に過ぎると、手術が終わるのを待っている家族の人は「手術がうまく進んでいないんじゃないのかな・・・」と不安になります。
しかし手術室から何も連絡がなければ、よっぽどのことがない限り「手術は順調に進んでいる」と思ってください。
時間の経過を忘れてしまうほど、脳神経外科医は手術に集中しています。
お腹も空きません。
オシッコをしたいっていう気持ちも出てこなくなります。
深夜でも、全然ねむくないです・・・(本当は眠たいです)
せっかく初期治療がうまくいった患者さんを、悪くするわけにはいきません。
どんな患者さんでも「元気に歩いて退院させてあげたい!」という気持ちで手術に望んでいます。
手術を終えても集中治療室(ICU)での全身管理や、長期間に及ぶリハビリテーション、退院後の生活などなど、越えるべき山は次々とやってきます。
でもその山は、ゆっくりでもいいので、一つ一つ乗り越えていくしかありません。
脳卒中後遺症でツライ日々を送られている患者さんを、アキラッチョは本気で応援していますよ ^ ^
それではまた!