くも膜下出血は、脳動脈瘤の突然の破裂によって起こる恐い病気です。
脳動脈瘤クリッピング術や、カテーテルによるコイル塞栓術によって治療を行いますが、治療がうまくいったからといって安心できないのが、くも膜下出血という病気の難しいところです。
今回は、くも膜下出血後の慢性期に起こる「正常圧水頭症(せいじょうあつすいとうしょう)」について詳しく解説していきます。
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【目次】
くも膜下出血の3大合併症!
くも膜下出血には次に挙げる3つの合併症があります。
・再出血
・脳血管攣縮
・正常圧水頭症
まず「再出血」ですが、くも膜下出血を起こしてから24時間以内に起こる危険な合併症です。
脳動脈瘤の再破裂によって起こるのですが、この再出血を起こした患者さんの死亡率は非常に高くなります。
再出血を予防するためにも、くも膜下出血の初期治療が重要になります。
次に「脳血管攣縮」ですが、くも膜下出血後の4〜14日の期間に起こる、こちらも恐ろしい合併症になります。
くも膜下出血にさらされた脳血管がどんどん細くなり、最終的に脳梗塞を起こす患者さんもいます。
そして3つ目が「正常圧水頭症」です。
くも膜下出血後、数週間から数ヶ月して起こるので、忘れた頃にやってくる厄介な合併症です。
それでは忘れた頃にやってくる合併症「正常圧水頭症」について、詳しく解説していきましょう。
正常圧水頭症ってこんな病気です
脳という臓器は、脳脊髄液(のうせきずいえき)という水の中につかっている”豆腐”のように柔らかいデリケートな臓器です。
この脳脊髄液は、側脳室の中の「脈絡叢(みゃくらくそう)」というところで産生されて、脳表にある「くも膜顆粒」から主に吸収されています。
くも膜下出血を起こした時は脳表が血まみれになるのですが、この血液によって脳脊髄液を吸収しているくも膜顆粒がつまってしまいます。
排水溝がつまって、水があふれてくるイメージです。
このあふれてくる脳脊髄液の行き場がなくなるため、産生場所である脳室がどんどん膨らんでくるのですが、この状態を「水頭症(すいとうしょう)」とよんでいます。
どんどん脳室が膨らんでくると頭の中の圧力は高くなりそうですが、くも膜下出血後に起こる水頭症は、なぜか圧力が高くならずに正常なままなので「正常圧水頭症」と呼ばれているのです。
正常圧水頭症の3つの症状!
くも膜下出血後の慢性期に起こる正常圧水頭症ですが、次に挙げる3つの特徴的な症状があります。
・歩行障害
・尿失禁
・認知症
くも膜下出血を起こした患者さんは、緊急でクリッピング術やコイル塞栓術を行って、破裂脳動脈瘤の治療を行います。
そして約2週間におよぶ脳血管攣縮の時期を乗り切れば、元気に退院される患者さんもいます。
しかし、その元気に退院したはずの患者さんが、徐々に歩き方がおかしくなってきて(歩行障害)、おしっこを漏らしたり(尿失禁)、言動がおかしくなってくる(認知症)場合は、正常圧水頭症の可能性が高くなります。
水頭症による慢性的な脳室拡大によって脳が圧迫されて、徐々に脳の機能が障害されるためにこれらの3つの症状が起こるのです。
この3つの症状の中でも、歩行障害から発症する患者さんが最も多いです。
くも膜下出血の患者さんは、退院後も2〜3ヶ月は注意が必要です。
もし「歩行障害」「尿失禁」「認知症」といった正常圧水頭症を疑わせる症状が出現したら、すぐに脳神経外科を受診し、CT検査などをおこなってもらいましょう。
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正常圧水頭症の治療!シャント術について解説
くも膜下出血後に起こる正常圧水頭症ですが、治療に関してはシャント手術が必要になります。
シャント手術とは、脳室にどんどん溜まっていく脳脊髄液を体の他の部分に逃がしてあげる手術になります。
このシャント手術には次の3つのものがあります。
・V-Pシャント術(脳室-腹腔シャント術)
・V-Aシャント術(脳室-心房シャント術)
・L-Pシャント術(腰椎-腹腔シャント術)
この3種類のシャント術をどのように使い分けるのかという話は、ちょっと専門的になるので割愛させて頂きますが、この中で最も多く行われているのがV-Pシャント術(脳室-腹腔シャント術)になります。
V-Pシャント術は、脳脊髄液の貯留している脳室にシリコンチューブを留置して、そのチューブを皮膚の下を通してお腹の中(腹腔)につなげる手術になります。
頭の中で過剰に溜まった水を、お腹の中へ持続的に流すことで、水頭症を改善することができるのです。
このシャントシステムは水の流れる量をコントロールすることができるので、手術後にCT検査をしながら丁度いい脳室サイズになるように少しずつ調整していきます。
注意点としては急激に頭の水が抜けすぎると、頭痛や吐き気などの症状が起こります。
そして水が抜けると脳がしぼんでしまうため、脳の表面の血管が切れて「慢性硬膜下血腫」という血液の溜まりができてしまう危険性もあります。
またV-Pシャントがつまってしまって水頭症が急激に悪化したり、感染を起こして髄膜炎という重篤な合併症を起こすリスクもあります。
手術自体は30分くらいでできる簡単な手術なのですが、手術後もしばらく注意して経過観察することが必要になります。
まとめ
正常圧水頭症は、くも膜下出血後によく起こる合併症です。
くも膜下出血後、数週間から数ヶ月して「歩行障害」「尿失禁」「認知症」といった症状が出現すれば、正常圧水頭症を発症している可能性が高いので、頭部CTなどの検査が必要になります。
V-Pシャント術(脳室-腹腔シャント術)を行うことで症状は劇的に改善しますが、治療のタイミングが遅れないように注意しなければなりません。
正常圧水頭症は、くも膜下出血の最後のヤマになります。
この最後のヤマをきちんと乗り越えれば、本当の意味で安心できるのです ^ ^
それではまた!