高齢化社会が進む日本では、認知症患者さんの数が年々増加してきています。
認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の高齢者も含めると、65歳以上の高齢者の4人に1人が認知症とその予備軍という計算になります。
今回は認知症の中でも最も患者さんの数の多い「アルツハイマー型認知症」について、その原因や症状、そして治療薬などについて詳しく解説していきます。
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【目次】
アルツハイマー型認知症とは?
「アルツハイマー型認知症」は認知症の中でも最も多く、認知症全体の約50%を占めています。
日本社会の高齢化に伴って、アルツハイマー型認知症の患者さんの数も増加して来ています。
アルツハイマー型認知症の原因ですが、この病気にかかると脳の神経細胞の中にアミロイドβタンパクと呼ばれる物質が蓄積し、神経細胞がどんどん破壊されていきます。
そして記憶の機能を司っている「海馬(かいば)」という部分を中心に、脳全体が徐々に萎縮して小さくなっていくのです。
アルツハイマー型認知症では「記憶障害」や「認知機能の低下」だけでなく、身体機能も徐々に低下して、最終的には寝たきりになってしまう患者さんが多いです。
アルツハイマー型認知症になりやすい性格 もあると言われています。
アルツハイマー型認知症の症状
アルツハイマー型認知症の症状ですが、脳の神経細胞の障害によって起こる「中核症状」と、その中核症状のために起こる「行動・心理症状(BPSD)」の2つに大きく分けることができます。
それぞれの症状について、詳しく解説していきましょう。
※ BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia
中核症状
「中核症状」はアルツハイマー型認知症をはじめとして、すべての認知症の主症状になります。
具体的には次の3つの症状があります。
✅ 記憶障害
✅ 理解力・判断力の低下
✅ 見当識障害(場所・時間・人がわからなくなる)
この中でも特に「記憶障害」は病気の初期から出現する症状です。
アルツハイマー型認知症では”自分の体験”そのものを記憶することができなくなるため、何もかも思い出すことができなくなるという特徴があります。
また病気で入院したり、引越しなどで生活環境が大きく変わってしまうと「見当識障害」が強く出現する患者さんもいます。
アルツハイマー型認知症が重症化してくると「自発性」や「意欲」も低下してくるため、自分の周りの物事に対して関心が薄くなり、その結果として「記憶障害」が目立たなくなってしまう場合もあります。
行動・心理症状(BPSD)
「周辺症状」とも呼ばれる「行動・心理症状(BPSD)」は、中核症状によって二次的に起こってくる様々な症状のことです。
代表的な行動・心理症状は次の6つの症状になります。
✅ 妄想(物盗られ妄想・嫉妬妄想)
✅ 徘徊行動
✅ せん妄(幻覚・錯覚)
✅ 介護拒否(食事・入浴・介護サービスの拒否)
✅ 失禁
✅ 不眠
これらの行動・心理症状ですが、患者さん個人の性格や生活環境・心理状態などによって、出現してくる症状や重症度が全く異なります。
中でも危険な行為につながる症状は、緊急で対処しなければなりません。
行動・心理症状には、患者さん本人の性格や生活環境に起因する”根本的な理由”があるので、それを理解した上で適切に対応することが、行動・心理症状の緩和につながることがわかっています。
アルツハイマー型認知症の4つの治療薬
アルツハイマー型認知症の治療は、神経のつながりをよくする薬の内服治療が中心となります。
それでは代表的な4つのアルツハイマー型認知症治療薬について解説していきましょう。
アリセプト®︎(ドネペジル)
我々の脳は、神経伝達物質というものを介して記憶や学習などを行なっているのですが、アルツハイマー型認知症の患者さんでは神経伝達物質の一つ「アセチルコリン」が減少していることがわかっています。
その一方で、脳の中にはアセチルコリンを分解する「アセチルコリンエステラーゼ」という酵素も存在します。
アリセプト(一般名:ドネペジル)という薬は、このアセチルコリンエステラーゼの邪魔をすることで、間接的にアセチルコリンの濃度を高めて、神経同士のつながりをよくする効果があります。
軽度から高度までのアルツハイマー型認知症に適応がある薬で、行動・心理症状の中でも「意欲低下」「無関心」「抑うつ」症状の改善効果があるという特徴があります。
このアリセプト(ドネペジル)という薬には、「錠剤」「細粒」「ゼリー」「ドライシロップ」「OD(口腔内崩壊)錠」の5種類の剤型があります。
患者さんの嚥下する能力に応じて剤型を使い分けることができるので、きちんと内服治療を継続する上で非常に有用です。
代表的な副作用としては「食欲不振」「吐き気」「下痢」などの消化器症状がありますが、軽い症状であれば徐々に体が慣れてきて、数日から一週間程度で自然に治ります。
他にも脳の中のアセチルコリンが増えすぎて、興奮が強くなったり落ち着きがなくなってしまう場合もあります。
介護者の負担が大きい場合には、アリセプト(ドネペジル)を減量または中止せざるを得ないこともあります。
メマリー®︎(メマンチン)
神経伝達物質の中には「グルタミン酸」という物質もあります。
このグルタミン酸も記憶や学習に関する物質なのですが、アルツハイマー型認知症の患者さんの脳の中ではこのグルタミン酸が過剰な状態になっていて、正常な記憶ができなくなっているという「グルタミン酸仮説」というものがあります。
メマリー(一般名:メマンチン)には過剰なグルタミン酸濃度の上昇を抑制する働きがあり、結果として脳神経細胞が死滅するのを防ぐ効果があると考えられています。
先ほどのアリセプト(ドネペジル)とは作用機序が異なるためメマリーとアリセプトは併用可能であり、2種類の薬の相乗効果を期待することもできます。
ただしメマリーの内服を始めた時に”めまい”症状が出現することもあり、高齢の認知症患者さんは”めまい”で転倒し、大ケガをしないように注意も必要です。
レミニール®︎(ガランタミン)
レミニール(一般名:ガランタミン)は、先ほどのアリセプトと同様でアセチルコリンエステラーゼという分解酵素を阻害することで、脳内のアセチルコリン濃度を高めて、神経伝達を活性化します。
またアセチルコリンを受けとる側(受容体)にも作用し、アセチルコリンによる情報伝達の効率を上げる効果もあります。
アルツハイマー型認知症の患者さんは、神経伝達物質のアセチルコリンだけでなく、アセチルコリン受容体の方も減少しているため、レミニールを内服することで、少ない受容体でもより効率よく情報伝達をすることができるようになります。
副作用としてはアリセプトと同様で「食欲不振」「吐き気」「下痢」などの消化器症状がありますが、軽い症状であれば徐々に体が慣れてきて、数日から一週間程度で自然に治ります。
また他の薬にも共通して言えることなのですが、薬の内服を急に中止したり減量すると、認知症の症状が急激に悪化する場合があります。
薬の減量や中止に関しては、必ず主治医の先生に相談するようにしましょう。
リバスタッチ®︎・イクセロンパッチ®︎(リバスチグミン)
リバスタッチとイクセロンパッチ(一般名:リバスチグミン)は、湿布のように体に貼るタイプの薬です。
この貼り薬もアリセプトと同様、アセチルコリンエステラーゼを阻害し、脳内のアセチルコリン濃度を高める効果があります。
ブチルコリンエステラーゼという酵素も阻害する作用があり、アリセプトやレミニールで効果が見られないような患者さんに対して効果を発揮する場合もあります。
リバスタッチとイクセロンパッチの一番のメリットは”貼り薬”であるという点です。
飲み薬は患者さんによっては飲み込めない方もいるし、またきちんと内服しているかどうかわかりにくいこともありますが、貼り薬であれば客観的にきちんと確認することができます。
また皮膚からゆっくりと薬が吸収されるため、吐き気などの消化器症状の副作用が起こりにくいというメリットもあります。
一方で体に直接貼る薬なので、副作用として貼った部分に「かゆみ」や「発赤」などの皮膚症状を起こす場合もありますが、貼る部位を毎日変えたり、皮膚症状を起こしたところに軟膏を塗ったりして対処することができます。
いずれにしても”貼り薬”であるという点は、アルツハイマー型認知症の治療薬として大きなメリットになります。
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アルツハイマー型認知症患者さんと一緒に生活するための心がまえは?
もし、身近な人がアルツハイマー型認知症になってしまったら、まわりの家族はどのように対応すればよいのでしょうか?
病気の悪化を予防するために、できるだけ早めに専門病院(精神科、物忘れ外来など)を受診することも大切です。
しかしそれ以上に、アルツハイマー型認知症を発症した方を”一人の人間”として認めてあげた上で、自分でできることはなるべく自分でしてもらうようにするということが重要になります。
アルツハイマー型認知症の方は、同じことを何度も繰り返して聞いてくることがあります。
しかしそんな場合でも、決して怒らないように心がける必要があります。
大事な予定はカレンダーで確認できるようにしたり、買い物をする時などはメモを活用するなどの工夫が必要になります。
薬の管理も飲み間違いがないように、まわりの人が環境整備をしてあげることが重要なのです。
アルツハイマー型認知症の方を否定したり、無理強いしたりするようなことをしないように、普段から心構えをしておかなければなりません。
アルツハイマー型認知症になった方も、病気になるまでは社会の一員として活躍し、大切な家族を支えてきた人たちなのです。
認知症の症状ばかりに注目してしまうのではなく、その人の”変わらぬ本質”というものをきちんと見つめてあげて、生活に必要なサポートだけでなく、適切な医療・介護・福祉サービスを提供してあげることが大切なのです。
もし自分がアルツハイマー型認知症になった時に、自分自身がしてもらいたいと思えるような介護やサポートをしていくという心がけを、絶対に忘れないようにしましょう ^ ^
それではまた!