認知症

治る認知症あり!特発性正常圧水頭症(iNPH)の症状や治療法について解説!

特発性正常圧水頭症iNPH

みなさんのまわりに「最近、物忘れが進んできた」とか「歩く時にフラフラするようになった」といったような高齢者の方はいないでしょうか?

一般的に「認知症」という病気は、薬の治療によって”現状維持”もしくは”進行を遅らせる”ことができますが、完全に治すことはできません。

しかし今回の記事で紹介する「特発性正常圧水頭症(iNPH)」という病気が原因であれば、認知症を手術によって治すことが可能となります

何年もの間、認知症として治療されていた高齢者の方が、たまたま頭の検査をした時に「特発性正常圧水頭症」と診断される場合もあります。

みなさんのまわりの高齢者の方にも特発性正常圧水頭症(iNPH)の特徴的な3つの症状が出ていないかどうか、ぜひ一度チェックしてみましょう!

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【目次】

特発性正常圧水頭症(iNPH)とは?

まず「水頭症」とは、頭の中に脳脊髄液(のうせきずいえき)と呼ばれる液体が過剰にたまってしまい、この脳脊髄液によって脳が圧迫され様々な症状を起こす病気です。

脳脊髄液は無色透明のきれいな液体で、普段は脳を外部の衝撃から守る役割をしています。

頭蓋骨の中で脳脊髄液に守られた脳は、”パックの中で水に浮かぶ豆腐”に例えられることが多いです。

この水頭症の原因ですが、以下の3つに大きく分類することができます。

① 脳脊髄液の産生が多くなる

② 脳脊髄液の流れが妨げられる

③ 脳脊髄液の吸収が妨げられる

水頭症の中には「非交通性水頭症」といって脳脊髄液の流れが先天性に悪く、生まれつき水頭症を起こしているような子供さんもいます。

また「くも膜下出血」や「頭部外傷」「髄膜炎」といった病気の後に「続発性正常圧水頭症」というタイプの水頭症を起こす患者さんもいます。

このように、水頭症には色々な種類があるのですが、今回紹介する「特発性正常圧水頭症(iNPH*)」は、先行する病気など原因が全く特定できないタイプの水頭症になります。

* iNPH:idiopathic normal pressure hydrocephalus

原因不明ってちょっと気持ち悪いですが、先ほど挙げた3つの原因のいずれかが関与していると考えられています。

この特発性正常圧水頭症(iNPH)は特に高齢者に発症する病気で、以下に挙げる3つの特徴的な症状があります。

① 歩行障害

② 認知症

③ 尿失禁

この3つの症状ですが、高齢者であれば誰にでもあるような症状ですよね?

自分のおじいちゃん(またはおばあちゃん)が、歩くときにヨタヨタするようになって、しかも最近物忘れが進行してきてて、本人に聞いてみるとおしっこを漏らすようになったと・・・。

これらの症状を、単なる”歳のせい”で終わらせていないでしょうか?

普通の老化現象と思っていたら、実は特発性正常圧水頭症(iNPH)という立派な病気が隠れている可能性もあるので、これらの3つの症状がないかどうかは必ずチェックしておく必要があります ^ ^

特発性正常圧水頭症(iNPH)の検査・診断

それでは特発性正常圧水頭症(iNPH)をどのようにして診断すればよいのでしょうか?

ある高齢者の患者さんを具体例として挙げてみましょう。

患者さんは70代の女性です。

旦那さんが亡くなられてから徐々に物忘れがひどくなってきて、家事ができなくなったということでアキラッチョの”もの忘れ外来”を受診されました。

診察室に入ってくる様子はヨタヨタとおぼつかなく、会話の内容も辻褄が若干合いません。

付き添いのご家族の方が「うちのおばあちゃんが認知症なんです!」とか「施設に入れようかと思っているんです!」などなど、前のめりになって一方的に話を進めようとするので、ひとまず脳の検査をしてみましょうということで、その場を落ち着かせました。

そして脳のCT検査をしたところ、特発性正常圧水頭症(iNPH)と診断したのです。

特発性正常圧水頭症、iNPH

まずは水平断CT画像ですが、脳脊髄液がたまっている”脳室”という部分が、正常なサイズの3倍以上に拡大していることがわかります。

これは脳室の中の脳脊髄液が過剰に貯留し、風船のように膨らんでいることを意味します。

特発性正常圧水頭症、iNPH

続いて冠状断CT画像では、脳室が大きく拡大している所見以外にも、脳のてっぺんのあたりの円蓋部(えんがいぶ)と呼ばれる部分が非常に狭くなっていて、こめかみのところに当たる”シルビウス裂”と呼ばれる溝が拡大しています。

脳脊髄液で膨らんだ脳室によって、脳がパンパンに圧迫されている様子がわかります。

これらの画像所見こそが、特発性正常圧水頭症(iNPH)の非常に特徴的な所見になるのです。

アルツハイマー型認知症をはじめとする「認知症」という病気は、薬の治療によってある程度であれば進行を抑えることはできますが、元通りに治すことは絶対にできません。

しかし、この70代のおばあちゃんのように「特発性正常圧水頭症(iNPH)」による認知症状であれば、治療によって治すことも可能となります。

脳の検査をせずに「認知症」と診断し、安易に薬の治療だけで経過観察となってしまうと水頭症がどんどん悪化してしまい、最終的に”寝たきり状態”となってしまう可能性もあります。

開業医の先生に「認知症」と診断されて、何年も薬だけの治療を行なっている患者さんが、実は特発性正常圧水頭症だったというケースも少なからず見られるので・・・。

やはり「認知症」という病気は、きちんと検査設備の整った専門の病院を受診した方がよいでしょう

(声を大にして伝えたいです!)

特発性正常圧水頭症(iNPH)の治療法

特発性正常圧水頭症(iNPH)の治療ですが、ずばり”手術”になります。

認知症を手術で治すことができるって不思議かもしれませんが、過剰にたまった脳脊髄液を抜いてあげることで脳への圧迫を解除することができれば、認知症状が改善する可能性があります。

具体的な手術方法ですが、以下の3つの術式になります。

① 脳室-腹腔シャント術(V-Pシャント)

② 脳室-心房シャント術(V-Aシャント)

③ 腰椎-腹腔シャント術(L-Pシャント)

いずれの術式も、脳(および脊髄)にたまった過剰な脳脊髄液を、特殊なチューブを使ってお腹の中(腹腔)や心臓へ流して抜いてあげるという術式になります。

「頭にたまった水を、お腹や心臓に流してもいいの?」ってよく患者さんに聞かれることがありますが、流した脳脊髄液は体の中に自然に吸収されるので全く心配はありません。

またこのチューブには水の流れる量を調整する装置が付いているため、手術をした後でも流れる量を増やしたり、逆に減らしたりすることができます。

簡単な手術なので慣れた脳神経外科医であれば約30分くらいで終わりますが、やはり全身麻酔の手術なのでそれなりにリスクはあります。

くも膜下出血、治療、水頭症

また本当に”シャント手術をして症状がよくなるかどうか?”ということを手術前に調べてみることも重要です。

その方法ですが「タップテスト」といって、腰のところから脳脊髄液を30mlほど抜いてみて、歩行障害や認知機能がよくなるかどうかを確かめてみます。

タップテストをして明らかに症状がよくなるようであれば、シャント手術の効果が期待できます。

逆にタップテストをしても症状が改善しなくても、CT検査で特発性過眠症正常圧水頭症(iNPH)を強く疑う場合は手術を行う場合もあります。

中には手術をすることで症状が劇的に改善する患者さんもいらっしゃるので、よくなる可能性にかけてシャント手術を受けてみるのもよいかもしれません。

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まとめ

特発性正常圧水頭症(iNPH)は高齢者に多い病気です。

その特徴的な症状をおさらいすると、以下の3つの症状になります。

① 歩行障害

② 認知症

③ 尿失禁

この3つの症状は、高齢者であれば誰でも起こり得る症状です。

みなさんのまわりにも「歳のせいだから仕方ないだろう」って諦めている高齢者の方はいないでしょうか?

もしこれらの症状が特発性正常圧水頭症(iNPH)による症状であれば、シャント手術で治すことも可能となります。

諦める前に病院を受診し、CTやMRIといった脳の検査をぜひ受けてみましょう。

もしかしたら、命に関わる危険な脳の病気 が隠れている可能性もあるので、単なる認知症だろうって楽観視するのはよくない場合もあります。

このブログを読んで、これからも”脳の病気”を学んでいきましょう!

それではまた!

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