重症度で違うの!?くも膜下出血の治療法の選択について

くも膜下出血、治療

 

ある日突然、脳動脈瘤が破裂することで起こる「くも膜下出血」ですが、出血の程度によって患者さんの重症度がかなり異なります。

出血が非常に軽ければ、「頭痛がする」ということで、脳神経外科の一般外来を普通に受診される患者さんもいます。

一方で、最初の出血の程度があまりにもひどければ、くも膜下出血を起こした瞬間に亡くなられる患者さんもいます。

 

このくも膜下出血の重症度5段階に分けられていて、それぞれ治療に対する”意気込み”みたいなものが異なっています。

今回は、くも膜下出血の「重症度」と「治療法の選択」についてのお話になります。

 

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くも膜下出血の重症度は5段階ある!

くも膜下出血の重症度分類は、次の3つのものがあります。

 

・Hunt & Hess分類

・Hunt & Kosnik分類

・WFNS(世界脳神経外科連合)分類

 

この分類の中でも、一番よく使われているのが「WFNS分類」で、くも膜下出血の重症度を「意識レベル」と「神経症状の有無」によって5段階評価します。

 

まず、意識レベルの評価ですが「Glasgow Coma ScaleGCS)」で行います。

このGCSですが、意識の状態を「開眼」「最良言語反応」「最良運動反応」の3つで評価し、意識レベルを3点から15点のスコアで表します。

 

① 開眼(E)

・自発的に開眼する・・・4点

・呼びかけにより開眼する・・・3点

・痛み刺激により開眼する・・・2点

・なし・・・1点

 

② 最良言語反応(V)

・見当識あり・・・5点

・混乱した会話・・・4点

・不適当な発語・・・3点

・理解不明の音声・・・2点

・なし・・・1点

 

③ 最良運動反応(M)

・命令に応じて運動できる・・・6点

・疼痛部への動きあり・・・5点

・疼痛に対する逃避反応あり・・・4点

・両上肢の異常な屈曲運動・・・3点

・両上肢の伸展反応(徐脳姿勢)・・・2点

・なし・・・1点

 

これら3つの評価項目の合計点で、意識レベルを表します。

すなわち最も意識の悪い状態は、GCS:E1+V1+M1=3点で、痛み刺激を与えても全く反応がない状態になります。

逆に意識がはっきりしている状態は、GCS:E4+V5+M6=15点となります。

 

このGCSを踏まえてのWFNS分類ですが、GCSの点数に「手足の麻痺」や「失語」といった神経症状の有無を加えて、くも膜下出血の重症度を以下のように5段階評価します。

 

グレードⅠ

 GCS:15点、神経症状なし

 

グレードⅡ

 GCS:14〜13点、神経症状なし

 

グレードⅢ

 GCS:14〜13点、神経症状あり

 

グレードⅣ

 GCS:12〜7点、神経症状の有無は不問(※)

 

グレードⅤ

 GCS:6〜3点、神経症状の有無は不問(※)

 

※ グレードⅣ・Ⅴの「神経症状の有無」は、意識が悪すぎで判別できないことがあるため「不問」になります。

 

話は少しややこしくなりましたが、くも膜下出血の重症度を表すWFNS分類は、グレードⅤが最も重症で、グレードⅠが最も軽症ということになります。

要するに、グレードの数字が大きいほど重症ということになるのです。

 

(僕が一番伝えたかったことは、最後の一行です)

 

くも膜下出血、治療

 

くも膜下出血の重症度による治療法の選択は?

くも膜下出血の治療法の選択ですが、これまで解説してきたWFNS分類のグレードによって決まります。

このWFNS分類のグレードを次のように大きく3つに分けます。

 

・「重症でない」くも膜下出血・・・グレード:Ⅰ〜Ⅲ

・「比較的重症な」くも膜下出血・・・グレード:

・「最も重症の」くも膜下出血・・・グレード:

 

これらの3つのグループにおける治療法の選択について、それぞれ紹介していきましょう。

 

「重症でない」くも膜下出血

まずは「重症でない」くも膜下出血です。

WFNS分類によるグレードではⅠ〜Ⅲに相当しますが、「脳卒中治療ガイドライン2015」では次のように記載されています。

 

重症でない例(重症度分類のグレードⅠ〜Ⅲ)では、年齢、全身合併症、治療の難度などの制約がない限り、早期(発症72時間以内)に再出血予防処置を行うよう勧められる(グレードB)。

 

念のために断っておきますが「重症でない」とは言っても、くも膜下出血である限りは自動的に「超重症の脳卒中」と認識します

あくまでもくも膜下出血の中では「重症でない」という認識になります。

 

グレードⅠ〜Ⅲの患者さんは、普通に目を開けていて、まわりの人と会話をしたりすることができるレベルになります。

脳動脈瘤が破れた時の出血の程度が運よく軽かったため、脳のダメージは最小限ですんでいるのです。

 

この「重症でない」くも膜下出血の患者さんは、必ずよくして退院させてあげなければなりません。

くも膜下出血と診断がつけば、すぐに初期治療の「鎮痛」「鎮静」「降圧」を開始し、できるだけ早く治療を開始することになります。

そして可能な限り早期に、手術などの積極的な治療を行う必要があるのです。

 

※「くも膜下出血の初期治療」の詳しい話はこちらの記事へ→

 

「比較的重症な」くも膜下出血

次は「比較的重症な」くも膜下出血です。

WFNS分類によるグレードではに相当しますが、「脳卒中治療ガイドライン2015」では次のように記載されています。

 

比較的重症例(重症度分類のグレードⅣ)では、患者の年齢、脳動脈瘤の部位などを考え、再出血予防処置の適否を考慮しても良い(グレードC1)

 

この文章の中で「再出血予防処置の”適否”を考慮しても良い」というところがポイントになります。

グレードⅣの患者さんは、意識レベルにGCS:12〜7点と結構な幅があります。

 

最も意識の良いGCS:12点となると、呼びかければ目を開けて、普通に会話をすることもできます。

一方で最も意識の悪いGCS:7点になると、ほぼ「昏睡状態」の患者さんもいることになります。

同じグレードⅣでも大違いですよね。

 

例えば、意識レベルがGCS:12点で、年齢が若いくも膜下出血の患者さんであれば、迷いなく手術などの治療を行うことになります

その一方で、例えば年齢が90歳で、何年も寝たきりの状態で過ごして来た高齢者がくも膜下出血を起こし、意識レベルがほぼ「昏睡状態」となると、全身麻酔の長時間手術に耐えることも難しくなり、手術をすることで全身状態を悪化させてしまう場合もあります

後者の場合であれば、ご家族と相談した上で、手術などの積極的な治療を見合わせることもあります

 

実際の医療現場では、「比較的重症な」くも膜下出血の患者さんのほとんどが手術を受けることになりますが、手術をすると絶対に状態が悪くなってしまう患者さんだけは、手術以外の「最良の内科的治療」を選択することになります。

 

「最も重症の」くも膜下出血

最後は「最も重症の」くも膜下出血です。

WFNS分類によるグレードではに相当しますが、「脳卒中治療ガイドライン2015」では次のように記載されています。

 

最重症例(重症度分類のグレードⅤ)では、原則として急性期の再出血予防処置の適応は乏しいが、状態の改善がみられれば再出血予防処置を考慮しても良い(グレードC1)。

 

グレードⅤの患者さんは意識レベルが「昏睡状態」で、救急車で搬送されて来た時にはすでに「脳死状態」になっていることが多いです。

生命を維持するために必要な「脳幹(のうかん)」の機能が、くも膜下出血のショックで破壊されているような患者さんになります。

たとえ治療がうまくいっても「元に戻らないような障害」と判断される場合は、残念ながら手術などの治療を見合わせることになります。

 

ただし、救急搬送された時にはグレードⅤで状態が悪くても、徐々に状態が改善するようなくも膜下出血患者さんもいます。

したがって、いくら最初の状態が悪い患者さんでも、最善の初期治療を全力で行い、少しでも状態の改善の兆しがあれば手術などの治療を行います

その場合は「ダメ元」手術ではなく、「希望をもった」手術になります。

 

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まとめ

くも膜下出血の重症度による治療法の選択について解説してきました。

ざっくりまとめてみると

 

・グレード:Ⅰ〜Ⅲ → 手術をする

・グレード:Ⅳ → 状態がよければ手術

・グレード:Ⅴ → 手術できない

 

となります。

しかし、これはガイドライン上での話であって、実際の臨床の現場では若干異なります。

 

例えば脳外科の先生がたくさんいる病院や、手術がすごく得意な先生であれば

 

・グレード:Ⅰ〜Ⅲ → 手術をする

・グレード:Ⅳ → 手術をする

・グレード:Ⅴ → 手術をする(よくなる可能性にかける!)

 

となります。

一方で、脳外科の先生が一人しかいないような病院や、手術があまり得意でない先生であれば

 

・グレード:Ⅰ〜Ⅲ → がんばって手術をする!

・グレード:Ⅳ → 状態が悪いので手術できない

・グレード:Ⅴ → 手術できない

 

というふうになる場合もあります。

 

グレードⅣ・Ⅴで重症度の高いくも膜下出血の患者さんの回復に関しては、実際には厳しい場合が多いです。

しかし中にはグレードⅤで瀕死の状態であった患者さんが、ほぼ完全に意識が回復して普通に生活できるようになる場合もあります

くも膜下出血を起こした時の一時的なショックでグレードⅤになっている患者さんもいるので、そのあたりの判断は難しくなります。

 

でもグレードⅤだからって最初から諦めてしまうのも僕は反対です。

手術をやらなければ、数日のうちに亡くなる方も多いですが、わずかでもよくなる可能性があるならば、希望をもって手術などの積極的な治療に臨むことも大切なのではないでしょうか?

グレードⅤの「重症くも膜下出血」の患者さんが救急車で運ばれてきた時こそ、次の言葉を思い出さなければならないのです。

 

最後まで・・・

希望を捨てちゃいかん

あきらめたら そこで試合終了だよ

引用:「スラムダンク」第8巻より

 

安西先生!その通りだよ(涙)

安西先生みたいな脳外科の先生、かっこいいですね ^ ^

 

それではまた!

 

くも膜下出血、治療