食生活の欧米化、運動不足、不規則な生活習慣によって、血液中のコレステロールが増えていくと「脂質異常症」(高コレステロール血症)という病気になります。
このコレステロールが血管の壁にどんどん蓄積されていくことで動脈硬化を起こし、「脳梗塞」や「心筋梗塞」などの原因となるのです。
脂質異常症は生活習慣の乱れが原因で起こる場合がほとんどですが、生まれつきコレステロール値の高い人や、薬の治療をいくらおこなってもコレステロール値が下がらない人もいます。
そのような人は「家族性高コレステロール血症(FH)」の可能性があります。
今回は”指定難病”にもなっている「家族性高コレステロール血症」の原因や症状、そして治療法について詳しく解説していきます。
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【目次】
家族性高コレステロール血症(FH)ってなに?
家族性高コレステロール血症(FH:familial hepercholesterolemia)は、遺伝子の異常が原因で、悪玉コレステロールであるLDLコレステロール値が非常に高くなる病気です。
通常LDLは「LDL受容体」というものにくっつくことで、肝臓やその他の細胞の中に取り込まれ、血液中のLDLコレステロール値を正常に保つことができます。
しかし家族性高コレステロール血症の場合、このLDL受容体に関連する遺伝子の異常があるため、LDLをきちんと肝臓や細胞内に取り込めなくなります。
その結果、血液中の悪玉LDLコレステロール値がどんどん増加してしまうのです。
この遺伝子異常ですが、父親由来と母親由来の両方の遺伝子に異常がある場合を「ホモ接合体」と呼び、どちらか一方だけに異常がある場合を「ヘテロ接合体」と呼んでいます。
ホモ接合体とヘテロ接合体の特徴は、以下のようになります。
ホモ接合体 | ヘテロ接合体 | |
頻度 | 100万人に1人 | 500人に1人 |
血液中のコレステロール値 |
総コレステロール ≧ 600mg/dL |
未治療時LDLコレステロール ≧ 180mg/dL |
特徴 |
・生まれた時から高コレステロール血症あり ・若年期より心筋梗塞などの冠動脈疾患のリスクが高い |
・心筋梗塞などの冠動脈疾患のリスクが健常者よりも高くなる |
※参考:「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012」より
家族の中に1人でも「家族性高コレステロール血症(FH)」と診断を受けた方がいる場合、他の家族にもFH患者さんがいる可能性があります。
また家族性高コレステロール血症の患者さんは、生まれた時から悪玉のLDLコレステロール値が非常に高くなります。
LDLコレステロール値の基準値(正常値)は140mg/dL以下なのですが、この基準値を大きく超えています。
したがって、若い年代でも動脈硬化が進行する危険があるため「脳梗塞」や「心筋梗塞」などを発症してしまう可能性が高くなります。
治療を何も行わなければ、30〜40歳代の若い年代でも「心筋梗塞」などの冠動脈疾患を起こすリスクが健常者の約20倍にもなることがわかっています。
また家族性高コレステロール血症患者さんの死因の約60%が「心筋梗塞」で、普通の人と比べると約10倍になります。
家族性高コレステロール血症は、早期発見・早期治療を行わなければならない危険な病気なのです。
家族性高コレステロール血症(FH)の症状と診断基準は?
家族性高コレステロール血症の患者さんは、血液中のコレステロール値が高いだけでなく、次に挙げるような特徴的症状があります。
✔︎ 眼瞼黄色腫(がんけんおうしょくしゅ) :まぶたにイボのような黄色いデキモノができます。
✔︎ 角膜輪(かくまくりん) :黒目の周辺に黄色い輪郭が現れます。
✔︎ 肘・膝などの皮膚の黄色腫 :肘や膝などの皮膚に黄色いシコリができます。
✔︎ アキレス腱の肥厚 :FH患者さんの60〜70%に認められる症状です。 |
これらの特徴的な症状も含め、家族性高コレステロール血症(中でもヘテロ接合体)と診断するための「診断基準」が以下のように定められています。
家族性高コレステロール血症・ヘテロ接合体(15歳以上)の診断基準項目 |
① 高LDLコレステロール血症 →未治療時のLDLコレステロール ≧ 180mg/dL ② 腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいは アキレス腱肥厚)あるいは 皮膚結節性黄色腫 ③ FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴 (2親頭以内の血族) |
※参考:「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012」より
若くて不摂生もしていないのにLDLコレステロール値が高い人や、薬の治療をしているのにLDLコレステロール値が下がらない人は、家族性高コレステロール血症の可能性があります。
その中でも高コレステロール血症の家族がいる人や、まぶた・肘・膝などに黄色のシコリができている人は、さらに家族性高コレステロール血症の可能性が高くなるので、病院を受診し精密検査をする必要があります。
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家族性高コレステロール血症(FH)の治療法
「脳梗塞」や「糖尿病」などの病気にかかっている患者さんは、心筋梗塞をはじめとする「冠動脈疾患」を起こす危険性が高くなるので、悪玉のLDLコレステロールを生活習慣の改善や薬を飲むことで下げる必要があります。
この時のLDLコレステロールの目標値は120mg/dL未満となっています。
一方で、家族性高コレステロール血症の患者さんは、心筋梗塞などの病気にかかる危険性がさらに高くなるため、LDLコレステロールの目標値は100mg/dL未満に設定されています。
しかし、いくら薬で治療をしても目標値まで到達しない患者さんもいます。
この場合は、治療をしていない時のLDLコレステロール値の50%未満を治療目標にします。
それでは家族性高コレステロール血症の具体的な治療法について解説していきましょう。
生活習慣の改善
まずは生活習慣の改善です。
家族性高コレステロール血症の患者さんは、動脈硬化の進行を予防するためにも、次に挙げる3つの生活習慣の改善が必要になります。
✔︎ 食事療法と体重の管理
✔︎ 運動療法
✔︎ 禁煙
まず「食事療法と体重の管理」についてですが、ポイントは低脂肪・低コレステロール食を中心とした正しい食生活です。
お肉やレバー、卵料理やタラコなどコレステロールの多い食べ物を避けて、魚や大豆、そして食物繊維が豊富な野菜(キャベツやしいたけなど)を中心とした食生活を心がける必要があります。
また肥満にならないように、カロリー制限をして標準体重維持を目標にしなければなりません。
次に「運動療法」ですが、家族性高コレステロール血症の患者さんは脳梗塞や心筋梗塞のリスクがあるので、やみくもに運動するのは危険です。
脳や心臓の血管を病院できちんと評価した上で、特に問題なければ一日30分以上の有酸素運動(ウォーキング、水泳、社交ダンスなど)を週180分以上することをお勧めします。
最後に「禁煙」についてですが、タバコを吸うことで脳梗塞や心筋梗塞の危険性が高まるのは周知の事実です。
特に家族性高コレステロール血症の患者さんは、脳梗塞や心筋梗塞になるリスクが高いので、必ず禁煙する必要があります。
周りに喫煙者がいる場合に起こってしまう受動喫煙も悪い影響があるので、病気に対する周囲の理解と協力も必要になります。
薬物療法
家族性高コレステロール血症の患者さんは、悪玉のLDLコレステロール値が非常に高値になるので、薬物療法は「スタチン」とよばれるコレステロールを下げる薬が中心となります。
このスタチンを含め、薬物療法に使われる主な薬剤を挙げてみましょう。
▶︎ スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬) 【作用】 肝臓でのコレステロール合成を阻害。LDL受容体を増やす作用もある。 【代表薬】 クレストール®︎、リピトール®︎、リバロ®︎ |
▶︎ 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬 【作用】 コレステロールの小腸からの吸収を阻害。 【代表薬】 ゼチーア®︎ |
▶︎ 陰イオン交換樹脂 【作用】 腸の中で胆汁酸と結合して排出させ、LDLコレステロールを下げる。 【代表薬】 コレバイン®︎ |
患者さんのLDLコレステロール値の変化と、副作用の有無を確認しながら、スタチンの投薬量を増量します。
スタチンでも十分な効果を得ることができない場合にゼチーア®︎やコレバイン®︎を追加することになります。
LDLアフェレシス
生活習慣の改善や薬物療法を行っても、総コレステロール値が250mg/dL以下に下がらず、また明らかに冠動脈(心臓を栄養する血管)に動脈硬化がある場合は「LDLアフェレシス」による治療を行います。
LDLアフェレシスとは腎臓の透析治療のような治療で、血液を体外循環にまわし、LDLだけを吸着する装置で血中LDLを取り除く治療法になります。
その他の血液成分や善玉のHDLは、吸着されずに体の中にすべて戻ります。
ただし、1〜2週間に1回のペースでLDLアフェレシスを行う必要があるので大変です。
まとめ
現在日本には、家族性高コレステロール血症の患者さんが約25万人以上いると推定されています。
しかし、実際にきちんと確定診断をされている患者さんは全体の1%程度とも言われています。
治療を受けている高コレステロール血症患者さんの中の約8.5%が、実は家族性高コレステロール血症であるという研究報告もあります。
すなわち、かなり多くの家族性高コレステロール血症の患者さんが、脳梗塞や心筋梗塞の深刻なリスクがあることに気がつかずに、ただただ高コレステロールの治療を受けているということを意味しています。
家族性高コレステロール血症は、早期発見・早期治療を行えば、健常な人とほぼ同じ寿命を得ることができます。
また「ホモ接合体」とわかれば、医療費の助成を受けることもできます。
一番の問題は、この深刻な病気の認知度がまだまだ低いことです。
若くてメタボもないのにLDLコレステロール値が高い人、薬の治療を受けてもLDLコレステロール値が下がらない人は「家族性高コレステロール血症」という病気を思い出してみてくださいね ^ ^
それではまた!