「脳出血」は生活習慣病の一つ、高血圧が原因となります。
脳の中を栄養している細い血管に、高い血圧がかかって破綻することで脳出血を起こすのです。
この脳出血は出血する部位によって、いろいろな名前がつけられており、それぞれ症状も異なってきます。
今回は脳出血の中でも最も頻度の高い「被殻出血(ひかくしゅっけつ)」について、詳しく解説していきます。
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【目次】
被殻出血とは?
まず、下の脳MRIを見てみましょう。
外側に「被殻(ひかく)」、内側に「視床(ししょう)」でその間に挟まれるように「内包後脚(ないほうこうきゃく)」があります。
それぞれの役割をすごく簡単に説明してみると、次のようになります。
・被殻・・・運動の調整を行う
・視床・・・体の感覚を脳へ伝える
・内包後脚・・・運動の命令を伝える
この「被殻」という場所に出血が起こるのが「被殻出血」になります。
被殻出血は脳出血の中で最も多く、全体の約50%にもなります。
原因は高血圧が最も多いのですが、細い脳の血管にできた超小型のコブ(脳動脈瘤)が破裂することで、被殻出血を起こすこともあります。
被殻出血ではどんな症状が起こるの?
それでは被殻出血ではどのような症状が起こるのでしょうか?
同じ被殻出血でも出血の量によって症状が異なってきます。
あまりにも小さな被殻出血であれば、出血したことに気がつかない人もいます。
(頭の検査をしたら、被殻出血を起こしたあとが偶然見つかることもあります)
もちろん出血が大きければ大きいほど、重篤な症状を起こします。
被殻出血を起こした時の症状を5つ紹介していきましょう。
頭痛
被殻出血を起こした瞬間に「頭痛」を感じる人がいます。
また出血が大きければ、それだけ頭の中の圧力が高くなるので、頭痛だけでなく吐き気も起こします。
被殻出血などの脳出血は、二次性頭痛の原因の中では代表格になります。
共同偏視(きょうどうへんし)
「共同偏視」とは、両方の眼が左右どちらかに向いてしまう状態のことを言います。
例えが悪いですが、テストの時に顔をまっすぐに向けたまま、横に座っているかしこい人の答案をカンニングする時のような状態です。
それでは両眼はどちらを向くのでしょうか?
テストの時であれば、かしこい友達の方に眼を向けると思いますが(確認のために反対も見るかな?)、被殻出血の時は出血を起こした方に眼が向きます。
左脳の被殻出血であれば左共同偏視を起こし、右脳の被殻出血であれば右共同偏視になります。
共同偏視のメカニズムに関しては非常に難しいのでここでは割愛します。
手足の麻痺
被殻のすぐ内側には「内包後脚」という部分があり、この内包後脚には運動神経が走行しています。
したがって被殻出血を起こすと、この内包後脚が外側から障害されて、手足の麻痺症状を起こすことになります。
この時に出血した側とは反対側の手足の麻痺症状が起こります。
脳の運動神経細胞から伸びる「運動神経」ですが、実は被殻よりも下にある「延髄」と呼ばれるところで左と右が入れ替わります。
(「延髄」・・・アントニオ猪木の必殺技「延髄斬り」をする場所にほぼ一致してあります)
例えば左の脳から伸びる運動神経は、左の内包後脚を通った後に延髄で左右が入れ替わり、右の手足の方へ伸びていきます。
ですので左の被殻出血が起こると、左の内包後脚が障害されるため、右の手足の動きが悪くなるのです。
ちょっとややこしいので「被殻出血を起こした方とは反対側の手足が動かなくなる」と覚えて頂ければありがたいです。
感覚障害
被殻出血では、出血を起こした方とは反対側の「感覚障害」が出現することがあります。
左被殻出血であれば、右半身の感覚障害を起こします。
手足を触られても分かりにくかったり、熱い・冷たい・痛いといったような感覚がわからなくなります。
体の感覚を伝える神経は、被殻の内側にある「視床」に一度集まり、そこから「内包前脚」(「感覚」は「前脚」になります)を通って、脳の感覚を感じる細胞へつながっていきます。
したがって、被殻出血により外側から内包前脚が障害されれば、感覚障害が起こるのです。
意識障害
被殻出血があまりにも大きい場合は、頭痛や手足の麻痺など言ってる場合ではありません。
出血の塊によって脳が圧迫されることによって、昏睡状態になる人もいます。
意識があまりにも悪い場合は生命に関わることもあるので、救命目的の緊急手術を行わなければなりません。
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被殻出血の治療法
それでは被殻出血はどのような治療法があるのでしょうか?
「脳出血!」といえば「すべて手術!」というわけではありません。
被殻出血だけではありませんが、脳出血の治療には「内科的治療」と「外科的治療」の2つがあります。
この2つの治療について、もう少し詳しく解説していきます。
内科的治療
まず「内科的治療」ですが、薬の治療が中心になります。
どのような場合に内科的治療が選択されるのかというと、ズバリ!「出血が小さい」場合になります。
脳出血の体積の測り方をまず紹介します。
CTで出血が一番大きくなる画像を選択し、その出血の一番大きいところの長さを”a”とします。
それに直交する線が一番長くなるところを”b”とします。
出血の高さを”c”とすると、出血の体積は ” a × b × c / 2 ”という式で計算することができます。
この式で計算した出血の体積が30ml以下であれば、手術をしない場合が多いです。
内科的治療では薬を使って治療するのですが、次の2点を中心に全身管理を行います。
・血圧管理
・脳の腫れを改善する点滴薬(グリセオールなど)
・止血剤
まず血圧管理ですが、上の血圧が140mmHgくらいになるまで下げることを目標に治療します。
140mmHgってそこそこ高い血圧ですが、被殻出血を起こして救急車で運ばれてくる患者さんの中には、200mmHg以上まで血圧が高くなっている人もいます。
(僕が見た最高の血圧は300mmHg!!こんな高い血圧測れるんだってビックリしました)
なぜ140mmHgくらいで調整するのかというと、被殻出血を起こした脳はすごく腫れているので、血圧を下げすぎると脳に血液を送り込むことができなくなって、脳が死んでしまうからです。
あとは脳の腫れをとる点滴薬(グリセオールなど)を投与し、脳の中の環境を少しでも楽にしてあげて回復を待つことになります。
約2週間も経過すれば、出血は徐々に吸収され始めて最終的にはきれいになくなります。
外科的治療
次は外科的治療、すなわち手術です。
どんな場合に手術になるかというと、出血の体積が30mlを超える場合になります。
被殻出血でも出血が大きい場合は意識が悪くなって昏睡状態になり、何も手を打たなければ(内科的治療をしていても)死んでしまう患者さんもいます。
実際の患者さんを例にとってみましょう。
67歳のおじさんで、高血圧があるにも関わらず何も治療をしていなかった方です。
晩ご飯を食べた後にトイレに行って、そのまま帰ってこなかったので家族の方が様子を見に行ったら、トイレの中で倒れていたので、アキラッチョの勤めていた病院に救急車で搬送されたのです。
意識が悪く、左手足を全く動かすことができなくなっていました。
すぐにCT検査をしたところ、右の被殻出血を起こしていたのです。
(下図↓白くなっているところが出血です)
出血量は30mlを超えていて、意識状態も悪かったのですぐに緊急手術になりました。
(僕たち脳神経外科医には、昼も夜も土曜日も日曜日もないのです・・・)
無事、手術が終わり、出血が残っていないか確認のCT検査をしました。
白く写っていた被殻出血は、見事になくなっています。
バッチリですね!!
このおじさんは、被殻出血で内包後脚が少し障害されていたので、左手足の麻痺が少し残りましたが、リハビリをしてなんとか自宅に帰ることができました。
救命目的で手術をする場合は、全身麻酔をして頭蓋骨を開ける「緊急開頭手術」になります。
しかし出血量が30ml前後で、緊急手術しなくても大丈夫そうな場合は、数日後に局所麻酔で出血を抜く手術をする場合もあります。
内科的治療にするか、外科的に治療にするかは、その時の患者さんの状態や出血の量で判断します。
ケースバイケースなので、その時に対応してくれる脳外科の先生の判断に任せるしかありません。
被殻出血はどこまで回復するの?後遺症は?
それでは被殻出血はどこまで回復するのでしょうか?
脳神経外科医をしていれば、すごい人数の被殻出血の患者さんを診療することになります。
(ちゃんと数えたことはありませんが、100人以上は関わっているはずです)
回復のパターンは大きく次の4パターンがあります。
① 全く後遺症が残らず、入院したと言っても信じてもらえないくらい回復する
② リハビリをしてかなり回復するが、手足の麻痺などの後遺症が残ってしまう
③ 重症の半身麻痺や意識障害のため、ベッド上で寝たきりの生活を送る
④ 治療の甲斐なく、亡くなられる・・・
同じ被殻出血なのに、これだけの違いが出てくるのは「最初の出血の大きさ」によります。
大きさが30ml以下の小さな被殻出血であれば、ほとんどの方が①になります。
30mlよりも大きければ大きいほど、②→③→④となってしまいます。
最後に一言、被殻出血の一番の原因は高血圧です。
血圧の高い方は生活習慣(特に塩分摂取)の見直しをし、できることなら高血圧の治療を受けましょう。
それではまた!