「脳梗塞」は脳の血管が動脈硬化や血栓などで突然つまってしまう恐い病気です。
血流が途絶えることで脳に酸素や栄養を送ることができなくなるため、脳梗塞を起こした部分は時間の経過とともにどんどん死んでいきます。
これまでの脳梗塞の治療といえば、血液をサラサラにしたり、脳細胞を保護するような「悪化を防ぐ」ための保守的な治療でした。
しかし2005年10月より、つまった血栓を積極的に溶かす「t-PAによる血栓溶解療法」が行われるようになっています。
今回はこの「血栓溶解療法」について、その優れた効果だけでなく恐い副作用についても詳しく解説していきます。
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【目次】
血栓溶解療法とは?
脳の血管が血栓などでつまってしまうと、血流の途絶えた脳は時間の経過とともにどんどん死んでいきます。
この途絶えた血流を少しでも早く再開させて、死にゆく脳を助けてあげる治療が「血栓溶解療法」になります。
具体的な方法としては次のようになります。
① 患者さんの点滴ルートを確保する
↓
② 最初の1分で、薬の10%を注射する
↓
③ 残りの薬を1時間かけて注射する
たったこれだけです。
あとは血流にのった血栓溶解薬が脳までたどりつき、脳の血管につまっている血栓を溶かしてくれるのです。
脳梗塞には3つのタイプ(ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓)がありますが、どのタイプの脳梗塞でもこの血栓溶解療法を行うことができるのです。
どんなタイプの脳梗塞でもOKで、しかも薬を注射するだけなので治療も非常に簡単なのですが、脳梗塞を起こした患者さんが誰でもこの治療を受けることはできないのです。
血栓溶解治療を行なってはならない条件はいろいろあるのですが、次のように単純に理解して頂ければ大丈夫です。
・脳梗塞を起こしてから4.5時間以内
・出血するような持病を持っていない
・血栓溶解治療の講習を受けた医者がいる病院
脳梗塞という病気は、起こした瞬間から正常な脳がどんどん死んでいくので、治療はできるだけ早く開始しなければなりません。
時間が経過して脳梗塞が完成してしまったら、いくら血流を再開させても脳は元には戻りません。
亡くなった人にいくら輸血をしても生き返ってくれないのと同じです。
また時間がかなり経過してからつまった血管を再開通させると、脳梗塞を起こして弱っている脳に突然血液が流れ出すため、思わぬ大出血を起こす可能性が高くなります。
いろいろな研究が行われた結果、脳梗塞を起こしてから4時間30分以内であれば効果が期待できるということがわかりました。
また血栓溶解療法は注射をするだけの治療なので、誰でも簡単にできてしまう分、治療のリスクを理解できていないと非常に危険です。
したがって、血栓溶解療法の講習をきちんと受けた先生がいる病院でしか、この治療を行うことができないのです。
近くの病院に救急搬送されて「脳梗塞」と診断されたにも関わらず、治療ができないから他の病院にもう一度救急車で移動しなければならないというケースも時々あります。
手足の麻痺や言語障害など脳梗塞じゃないかな?という症状が出た時には、4時間30分以内に脳神経外科や神経内科の先生がいる病院に救急搬送していただくのが一番安全です。
血栓溶解療法に使うt-PAってどんな薬?
血栓溶解療法には「t-PA(tissue plasminogen activator:組織プラスミノーゲン活性因子)」という薬を使います。
脳梗塞は脳の血管に「血栓」がつまって起こる病気ですが、この血栓は「フィブリン」という物質から形成されています。
そして血液中にはこのフィブリンを溶かす物質も存在します。
その物質は「プラスミン」と呼ばれており、プラスミンは血液中の「プラスミノーゲン」という物質から作られます。
このプラスミノーゲンを活性化してプラスミンの作用を高め、脳の血管につまった血栓を直接溶かす薬が「t-PA」なのです。
このt-PAは血栓そのものに作用するので、それまでの血栓溶解薬(ウロキナーゼなど)と比べて非常に効果が高く、しかも副作用である出血が少ないという画期的な薬なのです。
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血栓溶解療法は出血の危険がある!
血栓溶解療法は、脳梗塞を起こしてから4時間30分以内であればどんなタイプの脳梗塞にも治療行うことができます。
しかも血栓を直接溶かす作用があるため高い治療効果が期待できます。
その一方で、血栓を溶かす作用が強いため「出血」の副作用が心配になります。
この出血の副作用を回避するために、たとえ4時間30分以内に病院に救急搬送されても、血栓溶解療法を受けることができない患者さんがいます。
副作用で出血を起こす危険性が高く、血栓溶解療法を受けることができない条件を挙げてみましょう。
・脳出血を以前したことがある
・3ヶ月以内に脳梗塞を起こした
・3ヶ月以内に脳や脊髄のケガをしたり手術を受けている
・3週間以内に消化管出血や尿路の出血を起こした
・2週間以内に大ケガをしたり、手術を受けている
あとは血液検査をして、血液を固める作用のある「血小板数」が低かったり、血液をサラサラにする薬が効きすぎているような場合も、血栓溶解療法を行うことはできません。
僕が今まで行なった血栓溶解療法を行なった患者さんの中にも、薬の副作用でひどい脳出血を起こして緊急手術になった方がいます。
もちろん治療適応に準じて血栓溶解療法を行なったのですが、その患者さんは78歳という高齢者であったため、弱くなった脳の血管が破綻して出血を起こしたと考えています。
75歳以上の患者さんに対しては「慎重投与」ということで治療自体は認められているのですが、治療開始前に十分検討しても、残念ながら一定の確率で副作用の出血は起こってしまうのです。
副作用として症状が悪化してしまうほどの脳出血を起こす確率は約4%になります。
ちなみに僕が血栓溶解療養を行なった最高齢の患者さんは97歳ですが、全く副作用なく治療後の経過も順調でした^ ^
出血するリスクの高いと判断された患者さんは、残念ながら血栓溶解療法以外の最善の治療を行うことになるのです。
※「血栓溶解療法以外の点滴治療」の詳しい話はこちらの記事へ→
まとめ【医師からのアドバイス】
脳梗塞の血栓溶解療法は、発症してから4時間30分以内であれば行うことが可能です。
出血しやすい病気を持っている方で、血栓溶解療法ができない患者さんもいますが、その他の治療も開始するのが早いほど効果があります。
手足の脱力感、呂律が回らない、めまいがするなど、何かいつもと違うおかしい症状があれば、たとえ軽い症状でも早めに病院を受診した方がよいでしょう。
病院で検査して、何も異常がなければそれでいいんです。
脳梗塞の初期症状を見逃さないようにしましょう。
それではまた!