くも膜下出血は、突然の頭痛で発症する「重症脳卒中」の一つです。
くも膜下出血を起こした患者さんのうち、45.8%の方は手足の麻痺など重篤な身体障害が残ってしまいます。
また不運にも亡くなってしまう患者さんは、全体の23.4%にもなる恐い病気です。
くも膜下出血の原因は「脳動脈瘤」と呼ばれる脳の血管にできたコブになります。
この脳動脈瘤が何らかの拍子に突然破裂することによって、くも膜下出血を起こすのです。
もし頭の中に脳動脈瘤が偶然見つかった場合は、破裂する前になんとかしてくも膜下出血を予防したいものですよね?
今回は、くも膜下出血を予防するための未破裂脳動脈瘤の手術のお話になります。
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【目次】
未破裂脳動脈瘤とは?
「脳動脈瘤」は、脳の血管にできるコブのことです。
脳の血管が分岐する部分にできやすく、血流がぶつかることで徐々に大きくなって、最終的に破裂します。
破裂してしまうとくも膜下出血を起こすのですが、破裂する前にたまたま見つかるコブが「未破裂脳動脈瘤」になります。
この未破裂脳動脈瘤ですが、日本人全体の2〜6%の人がもっていると言われています。
最近ではMRIなどの画像検査が進歩しているため、脳神経外科の外来を受診した患者さんの中でも、脳の検査で偶然見つかってしまうことがあります。
「たまたま検査して本当によかった!」とか「破裂する前に見つかってラッキー!」と考えたいものですが、実際に脳動脈瘤が見つかった患者さんは、かなり落ち込んでしまい、患者さんによってはあまりのショックに「うつ病」になってしまう人もいます。
頭の中にくも膜下出血の原因となる「爆弾」みたいなものがあると思うと、気が気じゃないですよね?
実際には脳動脈瘤が破裂する確率は、一年間で0.64%と非常に低いことがわかっています。
例えば未破裂脳動脈瘤の患者さんが1000人いたとすると、破裂してくも膜下出血になる人は一年間で6.4人くらいになる計算です。
しかし脳動脈瘤のサイズが大型のものや、形が悪いもの(コブにコブができているようなもの)は破裂する確率がグーンと高くなります。
もし未破裂脳動脈瘤が見つかってしまい、主治医の先生に治療をした方がよいと勧めれらたら、どんな治療法を選択すればよいのでしょうか?
未破裂脳動脈瘤の3つの治療法
未破裂脳動脈瘤には次の3つの治療法があります。
・脳動脈瘤クリッピング術
・コイル塞栓術
・経過観察
まず最初に「脳動脈瘤クリッピング術」ですが、全身麻酔の開頭手術になります。
脳動脈瘤を直接「クリップ」というもので挟んでしまい、コブが破れないように処置する手術になります。
2つ目の「コイル塞栓術」は、脳動脈瘤を”切らずに治す”治療法です。
足の付け根にある血管から「カテーテル」という細長いストローみたいなものを脳の血管までスルスルと進め、脳動脈瘤の中に「コイル」という細い針金のようなものをつめてしまう治療です。
3つ目の「経過観察」も、治療の選択肢の一つとして挙げてみました。
5mmにも満たないような小型の脳動脈瘤であれば、破裂する確率は年間1%にもならないので、実際にはこの「経過観察」を選ぶ患者さんが多いです。
ただし、絶対に破裂しないという保証ができないのがツライです。
実際にくも膜下出血を起こして救急搬送される患者さんの中には、5mmにも満たないような「小型の脳動脈瘤」が破裂したケースも結構多いです。
また手術をしなくてもいいような小型の未破裂脳動脈瘤でも、患者さんが心配される場合は手術になることもありますが、いざ手術となって脳動脈瘤を顕微鏡で見てみると、壁が非常に薄くなっていて今にも破裂しそうな脳動脈瘤であることがわかることもあります。
「虫の知らせ」って本当にあるんだなあと、つくづく思います。
未破裂脳動脈瘤の手術!「クリッピング術」はこんな手術です
それでは実際の未破裂脳動脈瘤の「クリッピング術」を”超簡単”に紹介していきます。
毎度のことですが、手術中の写真が少しだけ出ます。
”血”とか”脳ミソ”が苦手な方は、ここで読むのを止めて「まあまあ笑える記事」の方へ逃げてください!
未破裂脳動脈瘤は、破裂していない脳動脈瘤なので、実際はとても手術しやすいです。
くも膜下出血を起こしてしまうと、脳や血管など大事なものが全て血の海に浸かっている状態になるので、手術中に予期せぬ出血や脳損傷を起こしてしまう可能性が高くなります。
もし大きめの脳動脈瘤が見つかれば、破裂する前に手術してしまう方が絶対にいいです。
(される患者さん側としては恐いと思いますが・・・)
今回紹介するのは左中大脳動脈瘤の患者さんで、前頭葉と側頭葉の間の「シルビウス裂」という隙間を丁寧に開いていきます。
若い脳外科の先生に手術をしてもらいましたが、ほとんど出血することなく脳動脈瘤に到達しました。
写真真ん中にある真っ赤な玉が脳動脈瘤です。
大きさは10mm以上あって、よく観察してみると脳動脈瘤の壁の向こうで、血液が渦を巻いて流れているのがわかりました。
このまま放っておくと、絶対にくも膜下出血を起こしていたはずです。
脳動脈瘤のサイズが比較的大きく、まわりの血管を巻き込むような形で成長していたので、クリップ1本ではきちんと処置することができません。
あーだ、こーだと小姑のように、後ろから若い先生に指導しながら(文句をつけながら)、上手にクリップをかけることに成功しました。
ガチャガチャとクリップが並んでますが、脳動脈瘤以外の脳血管をきちんと残すように「血管形成的」にクリップをかけているのです。
僕の師匠に習った「マルチクリッピング」という技になります ^ ^
その後も特に問題なく、手術は順調に終了しました。
手術後に造影CT検査を行いましたが、脳動脈瘤を完璧にやっつけることができました!
右が手術前の写真です。
そして左がクリッピング術をした直後の写真です。
この写真を確認した段階で、僕は心の中で叫びました。
私、失敗しないので!
引用:「ドクターX・大門未知子のセリフ」より
こんなにクリップが入ったら、頭の片方が重くならないんですか?って患者さんに聞かれました。
なので僕は、頭の片方が重くなってますか?って逆に聞いてみると、患者さんは笑顔で首をふりました ^ ^
最近のクリップはチタン製なので、脳動脈瘤の手術をした後でも、MRIの検査も安全に受けることができます。
もちろん飛行機に乗ることもできますし、僕の師匠の言葉を借りるなら「バンジージャンプ」もできます。
髪の毛もほとんど切らずに手術をしたので、手術をしたことすら他の人に気づかれません。
「手術を受けて本当によかったです」と言っていただけました。
この患者さんも合併症もなく、笑顔で退院されました ^ ^
(私、失敗しないので!)
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まとめ
脳の検査でたまたま「未破裂脳動脈瘤」が見つかることがあります。
どんな場合に治療を考えた方がよいのか?以下に簡単にまとめてみます。
・脳動脈瘤の大きさが5mm以上
・脳動脈瘤の形が悪い(特にコブにコブができている場合)
・脳動脈瘤のような”爆弾”を頭の中にかかえて生活するのが不安
ざっくりですが、こんな感じになります。
あとは担当の先生がすごく手術が上手な先生なら、前向きに手術を検討してもよさそうです。
脳動脈瘤が破裂してしまうと、重度の後遺症が残る可能性が高くなります。
たまたま脳動脈瘤が見つかってしまうと、みなさんかなりショックを受けられますが、でも僕はいつもこう言います。
「破裂する前に見つかって、本当にラッキーですね!」
そうなんです!
世の中には治らない病気(例えば「白血病」や「癌」など)もたくさんあるのです。
だから手術で治すことができるというだけでも、本当に幸せなことなのです。
あとは「私、失敗しないので!」って言ってもらえる脳神経外科の先生にお願いするだけで大丈夫です ^ ^
それではまた!