脳神経外科の外来診療をしていると、頭痛だけでなく「首の後ろ」が痛くて受診される患者さんも多いです。
かかりつけ医の先生に、痛み止めの薬や湿布で治療をしてもらっているにも関わらず、首の後ろの痛みが全然よくならないということで、脳神経外科を受診される患者さんもいます。
この「首の後ろの痛み」ですが、実はとんでもなく危険な病気がひそんでいることがあります。
今回は、病院でも見落とされやすい「首の後ろの痛みで発症する危険な病気」について、できるだけわかりやすく解説していきます。
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【目次】
首の後ろや後頭部が痛くなる5つの病気
首の後ろの痛みを訴えられる患者さんですが、ほとんどの方は「後頭部」や「肩」にも痛みが広がっています。
この首の後ろや後頭部に痛みを起こす主な病気は5つあります。
それほど心配しなくてもよいありふれた病気から、放っておくと命に関わるような危険な病気もあるので、順に紹介していきましょう。
緊張型頭痛
肩こりや首のコリが原因となって、首の後ろや後頭部がズキズキと痛くなってくるのが「緊張型頭痛」になります。
緊張型頭痛に悩まされている患者さんは、全国に約800万人もいると推定されています。
同じ姿勢で長時間にわたるデスクワークをしたり、細かい作業をする人に多い頭痛です。
首の後ろや後頭部などが痛い方は、まず緊張型頭痛の可能性を一番に考えるほどありふれた病気になります。
頚椎症
首の骨(頸椎)が変形してゆがんだりすることで、首の神経(頚髄神経)を圧迫してしまう病気が「頚椎症(けいついしょう)」です。
この「頚椎症」でも首の後ろの痛みや後頭部痛を起こします。
また変形した首の骨が神経を圧迫するため「手足の痺れ」や「脱力感」も同時に起こることが多いです。
頚椎症がひどい場合は手足が動かなくなってしまう危険性もあるので、無理な首の運動や、接骨院などで首をゴキゴキしたりするのは、絶対にやめましょう。
椎骨動脈解離
首の骨の中には2本の「椎骨動脈(ついこつどうみゃく)」という血管が走行しています。
椎骨動脈は脳の中で合流し、生命維持のために最も重要な「脳幹(のうかん)」という部分を栄養しています。
この椎骨動脈の血管壁が突然裂けて出血したり、逆につまってしまって脳梗塞を起こす病気が「椎骨動脈解離」です。
椎骨動脈解離の特徴的な症状は「突然の激しい痛み」です。
首の後ろや後頭部に「突然の激しい痛み」が起こった時は、椎骨動脈解離の可能性が高くなります。
この椎骨動脈解離は放っておくと命に関わる危険な病気なので要注意です!
髄膜炎
頭の中に細菌やウイルスが感染する病気が「髄膜炎(ずいまくえん)」です。
髄膜炎を起こした時も、後頭部や首の後ろが痛くなります。
髄膜炎の症状は「首の後ろの痛み」だけでなく、首の後ろが硬くなる「項部硬直(こうぶこうちょく)」という症状が特徴的になります。
また感染症なので、高い熱(ひどい時は39℃以上)も出ます。
髄膜炎の中でも「細菌性髄膜炎」は命に関わる病気なので、早急に病院を受診する必要があります。(子供さんでも髄膜炎にかかります!)
キアリ奇形
最後は聞きなれない病気ですが「キアリ奇形」でも首の後ろの痛みが起こります。
小脳と脳幹の一部が、頭蓋骨の底の穴(脊髄神経の通り道)に落ち込んでしまう病気です。
「奇形」という名前なので、本来は「生まれつきの病気」になりますが、成人になってから首の後ろの痛みで発症するものがあり、このタイプのものは「キアリ1型奇形」と呼ばれています。
脳のCT検査をしたり、首の骨のレントゲン検査をするだけでは見つけにくい病気です。
原因不明の首の後ろの痛みがある時は、キアリ奇形(特に1型)を見落とされていることがあるので要注意です。
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首の後ろが痛くなった時の4つの対処法
それでは首の後ろが痛くなった時はどうすればよいのでしょうか?
それぞれの病気にあった4つの対処法があるので、順番に紹介していきましょう。
温める
まず首の後ろや後頭部痛の原因で、最も多いのが「緊張型頭痛」です。
この緊張型頭痛は肩こりや首のコリからくる「筋肉の緊張」によって起こります。
筋肉が緊張して硬くなると血行が悪くなり、筋肉の中の疲労物質(乳酸など)の排出が悪くなり、首の後ろの痛みが余計ひどくなります。
したがって緊張型頭痛の対処法の一つとして、首や肩まわりの筋肉を「温める」ことをお勧めします。
温めることで血行がよくなり、疲労物質の排出に繋がります。
またリラックス効果によって交感神経の緊張も和らげることができるため、筋肉の緊張の緩和につながります。
温める方法としては、濡れたタオルを電子レンジでチン!して適温にした「ホットタオル」を首肩まわりに置いてみましょう。
また、僕が勤務している病院の看護婦さんは肩こり対策にあずきのチカラ 首肩用を使用しているようですが、結構いいみたいなので興味のある方は試してみてもよさそうです。(ちなみに僕は使ったことありません)
マッサージ・ストレッチ
首の後ろや後頭部痛の原因となる緊張型頭痛は、筋肉の緊張そのものが原因となるので、根本的な対処法として「マッサージ」や「ストレッチ」をすることをお勧めします。
特に首や肩まわりを大きく動かす運動が効果的です。
長時間のデスクワークや細かい作業が緊張型頭痛を引き起こすことがあります。
正しい姿勢や作業環境を整えると同時に、適度に休憩をとることも予防につながります。
痛み止めの薬・湿布
マッサージやストレッチをしてみても、首の後ろの痛みがあまりよくならない場合は無理をしないようがよいでしょう。
仕事や家事が忙しくて、どうしても病院を受診するのも難しい方は、痛み止めの薬や湿布を試してみましょう。(特に「緊張型頭痛」に効果が期待できる市販薬にリンクしています ^ ^)
すぐに病院を受診する!!
首の後ろの痛みでも、命に関わる危険な病気が原因となっている場合は、すぐに病院を受診しなければなりません。
すぐに病院を受診すべき危険な病気の特徴を挙げてみましょう。
・手足の痺れ、脱力感・・・「頚椎症」「脳出血」
・突然の激しい痛み・・・「椎骨動脈解離」「くも膜下出血」
・発熱、嘔吐、意識障害・・・「髄膜炎」
手遅れになると、重篤な後遺症が残ったり、場合によっては命に関わるような病気ばかりです。
これらの症状には、くれぐれもご注意ください!
まとめ【医師からのアドバイス】
今回は「首の後ろの痛み」や「後頭部痛」で発症する病気に注目してみました。
というのは、首の後ろの痛みを訴えて脳神経外科を受診される患者さんが結構多いからです。
今回紹介した5つの原因のうち、脳神経外科医でないとわからない病気が「椎骨動脈解離」と「キアリ奇形」です。
近くのかかりつけ医に痛み止めを処方してもらっているにも関わらず、首の後ろの痛みが全然よくならないような方は、一度脳神経外科を受診してみることをお勧めします。
これら2つの病気はMRI・MRA検査をしなければ診断することができません。
「痛いのは精神的なものでしょう」とか
「これ以上の薬がないから、我慢するか他の病院に行ってくれ!」
みたいな、乱暴な発言をする先生もいるみたいですが、「原因」があるからこそ「痛み」が出ているのです。
「痛み」というものは、自分にしかわからない症状です。
そのことを本当にわかっている先生にしか「痛み」の診断と治療はできないのかもしれません ^ ^
それではまた!