もの忘れ外来をしていると、本物の「認知症」という診断で薬による治療開始となる患者さんがいますが、ほとんどの方は「加齢による物忘れ」であり、薬を飲むことなく経過観察となります。
そして頻度は少なくなりますが、頭部の検査で「脳の病気」が見つかる患者さんもいます。
今回は、認知症じゃないかな?ということでアキラッチョの外来を受診し、危険な脳の病気が見つかってしまった患者さんを紹介していきます。
単なる認知症と思っていたら、命に関わる病気が隠れていることもあるので・・・ご用心を!!
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【目次】
仏壇の前で排泄の姿勢をしていた82才の女性
脳神経外科医の仕事ですが、本来なら脳の手術が専門になるのですが、日常の診療では実に色々な患者さんを診察しています。
「頭」が痛い、「頭」がフラフラする、「頭」がおかしい・・・などなど、とにかく「頭」という言葉が少しでも入っているような症状があれば脳神経外科を受診することになります。
(中には「頭痛」は脳の病気じゃない!と主張する脳外科の先生もいますが ^ ^)
そして、そのような患者さんの中には命に関わるような脳の病気を発症している方もいるのです。
まず最初の患者さんですが、亡くなった旦那さんの仏壇の前で、朝からず〜っと排泄する姿勢をとりながら、ブツブツと独り言を言っているという82才の女性です。
認知症になったのでは?ということで、家族に連れられて脳神経外科の外来を受診したのですが、診察中も会話が噛み合わず、おかしな行動をとり続けていたので脳の検査をすることになりました。
するとCTおよびMRI検査で両側の後頭葉に「脳梗塞」を発症していることがわかったのです。
脳の血管を調べるMRA検査で、左の後大脳動脈(黄色矢印)が閉塞しています。
この患者さんは脳梗塞が原因で、あたかも認知症になってしまったかのように見えていたのですが、頭の検査をしなければ大変なことになっていた可能性もあります。
緊急入院となり、心原性脳塞栓症(心臓から血栓が脳へ飛んでいく病気)の診断でDOAC(ドアック)による治療開始となりました。
おかしな事を言って暴れるようになった95才の男性
二人目は、数日前からおかしな事を言って暴れるようになったという95才の男性です。
この方も認知症じゃないか?ということで脳神経外科外来を受診することになったのですが、外来で手足を振り回して叫びまくるという暴れっぷり・・・。
認知症がたった数日でここまでは進まないだろうと考え、頭部CT検査を行うことになったのです。
CT検査の結果、脳のてっぺんのところに大きな「脳出血」を起こしていることがわかったので、緊急入院となりました。
脳の皮質下出血 を起こされていたのですが、出血部位によって手足の麻痺など神経症状の出ない場合もあるので、ご家族の方は脳出血の診断にびっくりされていました。
このような患者さんがいる以上、頭に関する症状がある場合は、必ず頭部の検査を行った方がよいと(僕は)考えています。
物忘れがひどく、会話がままならなくなった70才の女性
次の患者さんは、一ヶ月くらい前から物忘れがひどくなってきて、会話がままならなくなったという70才の女性です。
家に帰る道がわからないとか、買い物もきちんとできないなど、あたかも認知症を発症したかのような症状でした。
認知症の治療をして欲しいということで近くのクリニックから紹介となったのですが、頭の検査をしてみたところ、とんでもない病気が見つかったのです!
診断は「悪性の脳腫瘍(のうしゅよう)」でした。
造影剤を使ったCT検査ではっきりと白く写っているのが悪性脳腫瘍の本体になりますが、増殖するスピードが早いため、正常な脳が大きくゆがんでいるのがわかります。
この患者さんは開頭手術と化学療法(薬の治療)などを行いましたが、残念ながら半年くらいで亡くなられました。
認知症状で発症する脳腫瘍 という病気ですが、悪性ばかりでなく良性の場合もあります。
普通の認知症と思っていて、実は脳腫瘍だったという可能性もゼロではないので、症状がどんどん進行するような場合は必ず脳の検査を行った方がよいでしょう。
受け答えがおかしくなり、尿失禁をするようになった43才の男性
四人目の患者さんはアキラッチョと同じアラフォーです。
そもそもアラフォーで「認知症」っておかしいですよね?
この患者さんですが、一ヶ月くらい前から受け答えがおかしくなり、尿失禁をするようになったということで、心配になった知人に病院まで連れてきてもらったという43才の男性です。
自称、吉田○郎の付き人をしていた・・・ということでしたが、脳の機能障害による妄想の可能性も高そうです。
(その方の入院中に、吉田○郎さんがお見舞いに来ることはなかったので・・・)
年齢的にも認知症はおかしいので、頭部の精密検査をすることになりました。
この検査で見つかったのが、左の前頭部の「脳膿瘍(のうのうよう)」という病気です。
簡単に説明すると、脳の中に膿(うみ)がたまる病気です。
この患者さんはひどい蓄膿症を持っていて、それが脳に感染したのではないか?と考えましたが、とにかくこのまま放って置くわけにはいかないので、チューブを刺して膿を抜く手術を行いました。
手術後の経過は良好で、一人暮らしができるまで能力も回復したのですが、もし頭の検査をしてなければ手遅れになって亡くなっていた可能性が高いです。
退院後も「僕は東京で”吉田○郎”の付き人をしていたんです」と繰り返しおっしゃられていましたが、今となってはその真偽は不明です ^ ^
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まとめ
あたかも「認知症」のような症状で発症した、危険な「脳の病気」を4つ紹介してきました。
もう一度、簡単にまとめてみましょう。
✅ 脳梗塞 ・・・脳の血管がつまる病気
✅ 脳出血 ・・・脳の血管が切れて出血する病気
✅ 脳腫瘍 ・・・脳にできるデキモノ
✅ 脳膿瘍・・・脳に膿がたまる病気
単なる「物忘れ」や「認知症」ということで様子をみていると、命の危険も出て来るような病気ばかりです。
認知症を薬で治療をしているにも関わらず、どんどん症状が悪化するような場合は、必ず頭の検査を行った方がよいでしょう。
めんどくさがって(?)頭の検査を全然してくれない病院の先生も結構います。
そもそもそんな危険な病気が隠れているって考えもしない先生もいるので・・・(汗)
このブログを読んでいただく事で、自分の身は自分で(ある程度)守ることができるようになってくれると嬉しいです。
それではまた!